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勇者たちの歴史
西暦編
第六話 タイム・リミットA
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い』というものがあった。凛の発言は、大社が自ら申し出た取り決めを無視していると指摘し、更には四国側の不信を滲ませたに等しい。
 若葉の反応からして、彼女の周囲に他人はいないのだろう。
 だが、傍受の有無までは証明できない。たとえ若葉からの心証を害してでも、凛には大社を交渉の場に引き出す必要があった。
「冬木の現状は切迫しています。これ以上、待つことはできません」
『待ってくれ、遠坂さん! 先週までに聞いた話と違う、まず順を追って説明を、…………な、に?』
 ドタバタと、突然通信の向こうが騒がしくなった。
 聞き覚えのない声と若葉の非難する声とが朧気に聞こえる中、低くはっきりとした男の声が礼装から流れ出る。
『…………はじめまして、遠坂凛さん。勇者に代わって、私が話を聞きましょう』
「ようやく出てきたってわけ。それで? あなたは、一体どこの誰なのかしら?」
『大社に勤めている、三流どころの呪術師ですよ。名前の方は、ご容赦いただけますか? 呪いをかけるのは得意ですが、解くのはとんと苦手でして』
 飄々と答える声が、凛の神経を逆撫でる。
 だが、大社を名乗る人間をようやく引き出せたのだ。今回は、これで良しとしなければ、せっかくの機会を不意にしかねない。
 焦げ付くような苛立ちを押さえつけながら、彼女は本題を切り出した。
「冬木の現状についてだけれど、大社はどこまで知ってるのかしら?」
『……具体的には、何も。ただ、ここ数日の間、諏訪への侵攻が不自然に消えたことから、冬木が大規模な侵攻を受けているだろう、との推測は立てていました』
『馬鹿な……そんな話、私たちは聞いていない……!』
『あくまで、推測でしたので。必要になれば、追って伝達する予定でした』
 若葉の糾弾を、男は淡々とした声で躱している。
 暴れる音が聞こえないのは、若葉が自制しているのだろう。いくら大人と子供とはいえ、本気で暴れる人間を生身で拘束するのは容易ではない。相手が、戦闘訓練を行っているのならなおさらだ。
「噂通りの組織のようね。あの時計塔まで、あなたたちの悪評は届いてたわよ?」
『それは光栄ですね……それで、冬木はどんな状態なのですか?』
 暖簾に腕押し、糠に釘。
 軽口を収めた凛は、本来の目的に集中する。
「侵攻を受けていたのは事実よ。期間は、前回の通信後から今日の朝まで。新たに結界を構築してからは侵入を許していないけど、いつまでもつかは正直分からない」
『……今の話だけならば、そこまで切迫しているに思えませんが。別の問題ですか?』
「ええ。魔術炉心の方が限界寸前、新しい結界を構築したあたりで完全にガス欠よ。冬木は、あとひと月も結界を維持できない」
『なるほど。それは大変だ、我々大社を強引に引き出した理由も納得できました』
 躊躇なく、凛は
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