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勇者たちの歴史
西暦編
第六話 タイム・リミットA
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状況は芳しくない。
 有り体に言えば、まさに崖っぷちだった。
「これまで通りに引きこもっても、一ヶ月が限界、か……よくもったと思うけど、いよいよじり貧になってきたわね」
 一ヶ月――――――それは、大聖杯が今の結界を維持できる最長期間。
 結界が一度も破られず、大聖杯の稼働を定期の食料確保や消耗物資補充などにのみにあて、いつもと変わらない日常が保証される生存猶予。
 目前に迫るデッドライン。
超えた先にあるのは、今度こそ一方的な虐殺だ。
「そんなこと、させてたまるかっての」
「でも、本当に作戦あるんですか? 姉さん、さっきの会議で自信満々で言い切ってましたけど」
「……む。なによ、桜まで士郎と同じように疑ってるわけ?」
「はい、ほんの少しだけ、ですけど」
「…………ぬぬぬッ」
 非難の眼差しもどこ吹く風、にっこりと肩越しに笑う桜。
 凛が何か言いかけ、止める。今の話題では分が悪いと思い直したのもそうだが、そろそろ予定の時間だと気づいたからだ。
「さて、と。それじゃあ桜、頼んだわよ?」
「大丈夫、こっちも準備できてます」
 桜の手に握られたのは、凛の使っている携帯電話。
 凛は頷くと、いつもの通信用礼装の前に座り、起動させる。
「―――――Anfang(セット)
 魔術回路をスタートさせる。
 魔力を送り込まれた礼装は、すぐにその機能を果たす。
 漂う細い線を手繰り寄せ、識別し、目当ての線だけを捉える。礼装間での通信であればそれほど時間もかからない工程だが、相手が現代機器となると勝手が違う。
 だが、いつまでも泣き言を言っている訳にもいかない。
「―――――捕まえた」
 何度やっても慣れない作業を、いつもの半分ほどの時間で終わらせる。
 雑音を吐き出していた礼装から、繋いだラインを通して少女の声が流れ出した。
『――――――香川より、乃木です。これより通信を始めます』
「――――――冬木より、遠坂です。元気そうですね、乃木さん」
 いつも通りに挨拶を交わす。
 普段であれば、そのまま互いの状況を報告し合い、通信を切り上げるところだが。
「乃木さん。状況報告の前に、少し質問してもいいですか?」
『え? ……いえ、すみません。私に答えられることであれば、お答えします』
 そう、ここからが勝負所。
 慎重に、冷徹に、魔術師としての遠坂凛が口を開く。
「同室している、あるいは――――――通信を聞いている大社の方がいるならば、少しの間だけ代わっていただけますか?」
『な…………ッ!? 遠坂さん、それはどういう意味だ!』
 若葉の激昂も無理はない。
 四国と冬木の通信において、いくつかの約定が交わされている。
 その中の一つ、大社から出された項目として『当通信において、第三者の立ち合いを行わな
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