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勇者たちの歴史
西暦編
第六話 タイム・リミットA
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 色を失った唇で、血を吐くように呪文を紡ぐ。
 気力を奮い立たせ、少ない魔力を活性化させる――――桜の奮闘はしかし、敵の脅威認識を引き上げるには十分だった。
 化け物が密集していく。取り囲んでいた個体が融合し、複数の進化型が桜の前で生み出される。
 その数、五体。
「ッ……!! 諦めて、たまるもんかぁあ……!!」
 絶望的な戦力差に、四体の影で立ち向かう。
 周囲に展開した影は消せない。
 目の前の敵に集中して、一体でも侵入を許せば大惨事になる。柳洞寺に避難した人々や、大空洞で願望器の制御に死力を尽くしている凛では、化け物に抗う術はないだろう。
 決死の覚悟を決めた桜が、影たちを動かそうと口を開く。
「、…………あれ?」
 その一瞬前、矢を放とうとした進化型が赤い閃光と共に爆散した。
 唖然としている間に、次々と白い巨体が撃ち落とされる。
 来ることのできないはずの救援が、周囲の残党を一掃した。正確無比の射撃は標的を射殺し、降り立った弓兵は桜の姿に安堵の表情を浮かべる。
「悪い、桜。助けに来るのが遅くなった」
「い、いえ! ありがとうございます……じゃなくて、どうして先輩がここに!?」
「結界が強化されたらしい。おかげで、どうにか余裕ができた」
 そう語る士郎の息も上がっていた。
 無理もない。魔力は無限に近くとも肉体は人間のままであり、動くほどに疲労は蓄積されていく。
「…………ひとまず、なんとかなったな」
「そう、ですね。なんとか、護り切れました」
 ホッと、互いに力を抜く。
 新しい結界はよほど強固なのか、新たな敵が侵入してくる気配はない。
「それじゃあ、俺は一通り結界を見回ってくる。上で遠坂が待ってるだろうし、桜は先に行っててくれ」
「分かりました。先輩も、気をつけてください」
 別れ際、桜の眼に映るのは新たな防壁。大聖杯が創り上げた、強力な魔術結界。
 その壁も、いつかは破られるのかもしれない。
 その『いつか』が遠い未来であることを願いながら、桜は階段を駆け上がった。
 
 
 
 食料の確保、水源の増設、食料の確保、食料の確保、消耗物資の補充、食料の――――――、
「ぐぅ……ッ! 必要経費、必要経費ってわかってるんだけど……!!」
「姉さん、落ち着いてください。その紙だって、タダじゃないんですよ?」
 自分のまとめた報告書を引き千切ろうとする姉を、優しく現実を突きつけて諭す妹の図。
 幸い、凛の暴走はすぐに収まった。
 羽交い絞めにされたまま、握り潰した紙束にジトっと視線を送る。そこに書かれている情報は冬木周辺の分散霊脈への所感やこれまでの大聖杯起動の経緯、貯蔵魔力量の推移など、つまりは大聖杯の状況調査の結果である。
 そして、その調査を行った本人が身悶えするほど、冬木の
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