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勇者たちの歴史
西暦編
第五話 タイム・リミット@
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最大の戦力を抱えておきながら、苦境に立たされているのは諏訪や冬木ばかり。
 若葉は、それを仕方がない、と割り切れる人間ではなかった。
『そうですか……ところで、この前話した件について、大社の方から回答はありますか?』
「…………いえ、何も。すみません」
 そうですか……、それは残念です。
 雑音交じりの声音は、あまり気にしていないように聞こえた。
 通信相手が気にしないように振舞っているのか、それとも本当に気にしていないのか……若葉には、どちらか判別がつかない。正直、自分よりひなたの方が通信相手として適任ではないかと、若葉は常々思う。
『まあ、こちらも切迫している訳ではありませんし。次の通信の時にでも』
「分かりました。大社の方にも、私からもう一度お伝えします」
 再度の確認を約束して、若葉は通信を切った。
 時計を見ると、まだ三十分も経っていなかった。予定では、冬木との通信に一時間ほどの時間を設けてはいるのだが、その時間が使い切られたことはない。
 若葉としては、諏訪との通信のようにもっと打ち解けたやり取りをしたいのだが、
「…………そう、上手くはいかない、か」
 カリカリ、とダイヤルを弄る。
 相手が年上、というのもあるのだろう。通信の内容が、情報の共有ばかりなのも原因かもしれない。
 週に二度、定期で行われている冬木との通信は、一年の間に若葉にとって大きな悩みの種になりつつあった。
 
 
 放課後、若葉は再び放送室を利用していた。
『…………えっと、冬木との通信を、もっと気軽な雰囲気にしたい、ですか?』
「そうなんだ。その、白鳥さんとの会話のように気兼ねなく、とはいかないかもしれないが……」
 毎日の日課になっている諏訪と四国の「勇者通信」、その相手である諏訪の勇者・白鳥歌野は、通信機越しに考え込むような唸り声を上げた。
 若葉がこうして彼女に悩みを打ち明けるのは、初めてのことではない。自分の仲間が抱えている不安や協調関係の課題、勇者としての在り方など、状況報告の後に交わす雑談の中で時折相談に乗ってもらっていた。
 暫定的ではあるが、若葉は四国の勇者の中でリーダーの役割を担っている。
 同年代の仲間として、軽口を交わすことのできる歌野との関係は、今の若葉にとってかけがえのないものだ。彼女との関係があるからこそ、冬木との繋がりも大切にしたいと思うのは、自然なことなのかもしれない。
 歌野は、しばらく唸り続けた後、
『そうですね。若葉さんの場合は一度、気軽に会話をしよう、という目標から離れてみるのがいいかもしれないですね』
 自信ありげにそう提案した。
 ピンとこなかったが、手詰まりの状態で代案が浮かぶわけでもない。若葉は大人しく先を促した。
「……しかし、それは、少し本末転倒じゃないか?」

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