西暦編
第四話 あの日C
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手にそびえたつ鉱石の塊を見上げながら、士郎は納得していた。
なるほど。確かに、遠坂らしい魔術だな、と。
「……すごいな。これ、時価に換算するとどのくらいになるんだ?」
『さぁ。わたしはただ、あの白いのが入ってこれないだろう魔術をイメージしただけ。用意するのは大聖杯なんだから、世界中の宝石がかき集められていても不思議じゃないわね』
それは、六本の巨大な円柱だった。
透き通るような水晶の中に、蠢く赤や青、色鮮やかな無数の軌跡。
高さ五百メートル、直径は百メートル弱といった寸法だろうか。その全てが宝石で構成されていることを思うと、脳裏に浮かぶ天文学的な数字だけで眩暈がする。
結界を維持する魔力も、大聖杯の方から引っ張ってこれるという。さすがに抜け目がない。
『――――それで、これからについて話し合いたいんだけど。士郎、戻ってこれる? 無理そうなら、こっちから新都の方に向かうけど』
「いや、大丈夫だ。少し休んだら、こっちで助けた人たちと柳洞寺に向かうから」
二言、三言と交わして、通話を切る。
ほう、と張り詰めていた緊張を緩めると、士郎の身体はあっけなく地面に転がった。
あまりのんびりはしていられない。
教会には、彼が保護した人々が息を潜めて待っている。数はそう多くないが、彼らを説得し、深山町まで移動してもらうのには相応の時間がかかるだろう。
その後、凛と、おそらく桜も含めて、今後に向けた話し合いもしなければならない。
やることは山積みだ。
それでも、何とか乗り切ることはできた。
「見てろ。今度は、取りこぼしたりしないからな」
誰に言うでもない決意は、正真正銘彼だけものだ。
遠い過去、かつての大災害で救われるしかない存在だった。
十一年前、未来の自分から、自分の信じるものの真贋を突き付けられた。
そして今、自分の力では助けることのできない命があった。
今度こそ、誰も失いはしない。大河も、桜も、凛も、生き残った人々を一人だって、あんな化け物たちに奪われてたまるものか。
その決意を胸に、士郎は弓を引き続けた。
二年の歳月を経た今も、冬木の守護者は新たな犠牲を拒み続けている。
遠坂家の地下。
二年前の襲来の際、手酷く壊されてしまった上の屋敷とは違って、魔術工房は無傷のままだった。
「………む、……むむむ? いまいち上手くいかないわね……」
通信用の魔術礼装を弄りながら、凛はぶつぶつと文句を呟く。
ああでもない、こうでもないと試行錯誤を繰り返していたが、ようやく落ち着いたのか居住まいを整えると礼装を起動させた。
「もしもし――――ええ、聞こえています。すみません、少しばかり通信の準備に手間取ってしまって。元気そうで何よりです――――乃木さん」
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