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勇者たちの歴史
西暦編
第四話 あの日C
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といえど生半な魔力では足りもしない。凛は宝石魔術を用いて長年溜め込んだ魔力を大幅に増幅させ、莫大な魔力を注ぎ込むことでようやく稼働にこぎ着けた。
 だが、事態は切迫している。
 大聖杯が動き出した、では遅すぎる。今すぐにでも本格稼働させないことには、冬木の滅亡は避けられない。
「――――だってのに、なんだってこのタイミングで……!」
 悪態を吐こうが、状況は変わらない。
 乱入してきた化け物も何かを察知したのだろう。これまでとは比較にならない勢いで、一人の魔術師へと襲い掛かる。
「――――Vier (四番 )……!」
 躊躇なく、唯一残っていた金剛石を投げ放つ。
 最後に残った切り札の一、静止の魔術は巨大な化け物の突進を空中に押し留めた。込めた魔力の量からしても、あと数分は対象の動きを封じ込めるだろう。それだけあれば、宝石を用いずとも進化型を打ち倒せるかもしれない。
 だが、それが何になるというのか。
「ああ、やっちゃった……」
 呆然と、立ち尽くす凛の両手に宝石はない。今の攻防で、本当に使い果たしてしまった。
 例え、この場を凌いでも、大聖杯が本格的に起動するのに半日はかかる。それまで、果たして桜は結界をもたせることができるだろうか? 士郎は、無限に増え続ける化け物たちを相手に、戦い続けることができるだろうか?
 答えは、否。
 魔術師は、無限に戦うことのできる存在じゃない。どんな反則技を持っていても、人間を超えた力をふるうことができたとしても、それは永久ではない。もし、その原則すらも破れるのなら、もうそいつは人間を止めてしまっているだろう。
 かつての相棒がいれば、らしくないと笑うかもしれない。それこそ、あのニヒルな笑みを浮かべながら、発破をかけるように小言を言ってくることだろう。
 だが、現実は非情だ。
 凛の手持ちに石はなく、魔力も足りない。大聖杯は寝ぼけていて、使えるようになる頃にはタイムリミットを大幅に超過している。
 こんな状態で、どうしろというのか。
「――――――――あ」
 ……ある。手は、ある!
 相棒――――脳裏を過った、赤衣の騎士の姿が逃避していた意識を引き戻した。
 慌てて、首元を探る。指先に触れた硬い感触、それが鎖だと思い出すのと同時にそれは目の前に転がり出た。
 赤い、紅い、大粒の宝石を用いたペンダントがそこにはあった。
 遠坂の家に伝わる、百年物の宝石。これは、かつてそれを拾ったお人好しが、律儀にも元の持ち主に返してきたものだ。聖杯戦争が終わってから、絶えず身に付け魔力を込め続け、ある意味、意識の外にあった切り札の中の切り札。
「……ありがとう。助かったわ、アーチャー」
 もう忘れるな、とかつて言われた言葉を思い出す。
 握りしめた宝石からは、信頼に足る重さが返ってくる。
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