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勇者たちの歴史
西暦編
第四話 あの日C
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士郎が殲滅したせいだろう、街の方角から来る化け物はほとんどいなくなったが、代わりに裏山から、気の遠くなるほどの攻勢が絶えることなく続いている。
 今回は、二十弱の集団だ。姿こそ見ることはできないが、その位置は詳細に捉えている。
 先頭の一体が魔術の防壁に喰らいつく寸前、
「声は遥かに――――私の檻は、世界を縮る……!」
 立ち上がった影の腕は、十の化け物を飲み込んだ。
 先頭の同族を喪失した化け物は、突如姿を見せた影の人型を警戒するように滞空する。影の人型はしばらくその場に在ったが、唐突に姿が掻き消える。
 隙を突いて突撃を敢行した数個体は、魔術の防壁を砕けず弾き返され、再び伸びた影に捕らわれ、消失する。残った個体は形勢の不利を悟ったのか、無謀に挑むことなく撤退する。
 ホッと息を吐く間もなく、次の集団が攻め立ててくる。
 今度は三十余り。先の残存個体も合流し、その数は四十にも届くか。
「声は願いに――――私の影は、大地を覆う……!」
 桜は再び、魔術の展開を変化させる。
 結界は維持のみに努め、自身の魔術に魔力を集中させる。山の境界から広がる影は、全てが彼女の支配下に置かれ、使い魔へと変化した。
 彼女の本来の魔術・虚数属性の特性魔術は、虚数空間に対象を取り込む魔術だ。そこに、間桐の吸収の特性が合わさることで、あらゆる存在を飲み込み、溶解し、魔力の糧として吸収する魔術へと変貌する。
 生み出された魔力を充てることで、桜は辛うじて結界を維持し、防衛することに成功していた。彼女は、彼女にしかできない方法で、任された役割を全うしていた。
 
 だが、均衡はいとも簡単に崩壊する。
 桜の影は大地を覆い、近づくもの全てを把握し、飲み込んでいた。反面、結界に回される魔力は減少し、その機能は最低限維持されているに過ぎない。
 桜の魔術の間隙に気付いたのか、はたまた不幸な偶然が起きたのか。
 進化型の個体が一体、地中を潜行することで桜の影から逃れ、一切の妨害を受けないまま内部への侵入を成功させた。
 森の中で浮上した進化型は、人々が密集した山頂部を目指して移動する。その道中、それは何かを感知して動きを止めた。
 地中から響く、人間の域を遥かに超えた膨大な力の鼓動。
 最古の英雄さえも賞賛し、人体という小宇宙を実際に宇宙とした特例、超抜級の魔術炉心。
 進化型は、その魚のような体をよじらせると、再び地面へと潜り込む。
 目的はただ一つ。
 膨大な魔力を蓄えた冬木の大聖杯へ向け、侵入者は一直線に突き進む。



 大空洞の天井から化け物が降ってきた瞬間、大聖杯の起動は寸前まで迫っていた。
 小康状態にあった炉心に、火を投げ込んで稼働させる。
 言葉にすればただそれだけのことなのだが、大聖杯ほどの炉心を動かすには、種火
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