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勇者たちの歴史
西暦編
第三話 あの日B
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は五年の研鑽しか積んでおらず、使える魔術もそう多くはない。
 だが状況によって、高めた一が他を凌駕することもある。
 桜の足元から伸びる影から複数の腕が出現し、対象を掴んで引きずり込む。虚数空間に引きずり込まれた存在は、あらゆる情報が不確定であるその場所から逃れることもできず、やがて存在そのものを保てなくなり、虚数の海に埋没する。
 虚数の世界は、存在するが実体を伴わない架空の空間。
故に、物質的な上限はなく、魔力が続く限り獲物を捕らえ、飲み込んでいく。
「―――――Sieben( 七番 ) Acht( 八番 ) Ein K?rper(灰は灰に) ist ein() K?rper(は塵に)……!」
 トパーズとルビーが投げ込まれ、密集し始めた化け物がまとめて灰に変わる。
 今回、凛が用意した宝石は二十一。その内で切り札として準備していたのは五。
 既に宝石十四、うち切り札の石を三も消費したが、灰が撒き散った後にもう敵の姿は残っていなかった。
「これで、残りは七、か……」
 微かに眉を顰める。凛が想定していた以上に、宝石の消費が早い。
 化け物そのものの強さは、大したことはなかった。一流以上の魔術師であれば十分討伐でき、二流以下でも全力で戦えば倒すことは難しくない。
 だが、無数に現れる敵を殲滅するには、等価交換の原則がある限り、魔術師はあまりにも不利な立場に置かれる。何かを消費しなければ結果を得られないのが魔術であり、代償が尽きて魔術を行使できなくなった魔術師はあまりにも無力だ。
 そして、凛がこれから行おうとしている試みは、残りの宝石を全て投げうつ可能性のある大博打。
 ――これ以上、宝石は浪費できない。
「桜、これから円蔵山の周囲に結界を張るわ。それから、わたしは大空洞に籠る。多分、しばらくは出てこれないでしょうね」
 山のあちこちに仕込んだ宝石を確かめつつ、言葉を続ける。
 元々、円蔵山には大聖杯を守るため、結界を張る準備を仕込んでいた。山の四方に一個ずつ、宝石を繋げた方形に接する円との接点に一個ずつ。
そして、その円に内接する方形の、各辺の中点に一個ずつ。計十二個の宝石を用いた、英霊の宝具すら引けを取らない大魔術。一度きりの魔術である反面、その効果は規格外である。
「だから、わたしが大聖杯を起動させて、あの白いのをどうにかするまでの間。あなたに、この結界を守ってもらう」
 それは、使い切りの結界を、時間まで維持しろという無茶な要求。
 元々この結界は、凛が遠坂邸から駆け付けるまでの間、他の魔術師を山の中に入れないためだけもの。言わば、大盤振る舞いの時間稼ぎでしかない。
 それを維持するには、要の宝石に魔力を注ぎ続け、魔術を強引に成立させる必要がある。
 並みの魔術師では、数分と持たずガス欠にな
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