西暦編
第三話 あの日B
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握りしめた手の中で、剣の柄が悲鳴を上げた。
士郎が集中を欠いていた、あるいは冷静さを失っているのは間違いない。少なくとも、平時の彼なら気付けたはずだった。
今、自身が何処にいるのかということに。
自分の背後から、誰かが近づいてきていることに。
「…………あれ、士郎……?」
「……、藤ね、え……」
幸運だったのは、彼女が怪我一つ負っていなかったことだろう。
不幸だったのは、彼に魔術という非日常を隠す余裕がなかったことだろう。
異形に襲われ、日常が崩壊した冬木の夜。
魔術使いの衛宮士郎は、藤村大河と遭遇する。
襲撃から僅かな時間で、すでに柳洞寺の建つ円蔵山には多くの住人が逃げ込んでいた。
円蔵山は、この地における最上級の霊地だった。かつての聖杯戦争においてサーヴァントの侵入すら阻むほどであり、龍紋の影響を受けてなお、大聖杯の機能により霊地としてほとんど格を落としていない。
そして、白い化け物たちにとっても、この地は影響を無視できないものであるらしい。
凛と桜が辿り着いた時、侵入を躊躇うような様子で山の周囲を無数の化け物が浮遊していた。
このままでも、化け物たちは円蔵山に侵入しない可能性はある。
だが、それらがいつまでも小康状態が続く保証は何処にもない。それに、山の周囲を包囲されていては、せっかく士郎が逃がした人間が入ることもできない。
取るべき行動は決まっていた。
遠坂凛は、何事もやるからには徹底的にやる性質だ。
「計算ずくなんだか、それともただ執念深いだけなんだか……行くわよ、桜!」
「えぇ、いつでも行けます!」
化け物たちが気づく前に、二人は互いに魔力を活性化させる。
「―――――Anfang」
遠坂の魔術刻印が高速で回転を始める。
取り出す宝石は切り札の一つ、大粒のエメラルド。
封じた属性は風。込められた魔力の量は、かつての聖杯戦争時に用いたものより質も量も凌駕している。
「―――――Drei Ein Kreis Blitz……!」
砕けた宝石から伸びるのは、無数の雷の牙。
雷撃は放射状に展開し、化け物の身体を次々に射抜き消滅させる。
近づく敵は喰らい尽くし、遠ざかる標的も無慈悲に撃ち抜く。多対一の戦闘を目的に設計された魔術は、与えられた出番において十全以上の効果を発揮した。
華やかな宝石魔術の一方で、
「声は祈りに――――私の指は大地を削る……!」
間桐桜の魔術は静かに、だが一層容赦なく異形の数を削っていく。
桜の魔術特性は虚数。
間桐の魔術師としてではない、彼女本来の性質に依る魔術行使だが、凛と異なりまだ荒削りの面は否めない。桜はまだ魔術師として
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