西暦編
第三話 あの日B
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叩き落とす。
「走れ――そのまま、柳洞寺に向かえ!」
「ッ、は、はい……ッ」
そうだ、逃げろ。早く、早く、逃げてしまえ。
逃げる二人を射線から庇うように、士郎が双剣を構え直す。
「さっき見たのとは、また随分と違う。一種の個性みたいなものなのか?」
疑問が意図せず零れたが、当然返答はない。
代わりに音速で放たれた三本の矢を、夫婦剣で難なく捌く。
進化を遂げた化け物とやり合うのは、これで十度目。士郎も初めは驚いたが、そういうものだと納得してからは、寧ろ積極的に進化をするよう立ち回ってきた。
進化を遂げると、化け物は格段に強くなる。それと同時に、行動そのものも進化前から多少変化することも分かってきた。
それは、無差別な人間の殺戮よりも、士郎のみを殺す行動を優先するようになるというもの。
士郎を殺すため、進化をした影響だろうか。
あるいは、単純自分たちを殺し得る存在を優先して排除したがっているだけだろうか。
理由ははっきりしないが、士郎にとっては好都合な変化だ。
「――投影、開始」
双剣を投擲し、すぐさま新たな短剣を両手に握る。
投げ放たれた陰陽の剣は細腕を断ち切り、後方へ抜けて消える。化け物は動揺もなく本体の穴に矢を生み出し、正面の敵に照準を定めた。
「ッ――、投影、開始」
標的は、狙いから逃れず真正面からの接近を選択した。
武装は変わらず、一対の短剣。
狙い違わず頭部へ向けて撃ち出された巨大な矢を、交差させた干将と莫耶で受け止める。
拮抗は一瞬、夫婦剣は無残に砕けて消滅する。だが、その一瞬の衝突が軌道を歪め、必殺の威力を誇る矢は無人の家屋を粉砕しただけに終わる。
「――凍結、解除、――――はッ、だぁ――――ッ!!」
現れた隙を、士郎が見逃すはずもない。
準備を終えていた干将・莫耶を、もう一度両手に握る。
瞬時に強化し、オーバーエッジ。
長大になった双剣は容易く化け物の身体を切り裂き、とどめを刺した。
「――――、はぁ、はぁ、……次は、」
オーバーエッジを破棄し、新たに投影をしながら周囲を窺う。
辺りにいた化け物は、今の進化体に軒並み融合していたらしい。近づこうとする気配はなく、彼は僅かに緊張を緩めて息を吐いた。
これで、深山町は大体見て回ったことになる。
目についた生存者は柳洞寺へ誘導できたが、それでも数百人程度。もちろん全てではないだろうが、相当な数の人間が犠牲になったことは間違いない。
「……くそッ、俺は……」
殺された彼らは、救わなければならない命だった。
少なくとも、士郎にとっては。全ての命を救う『正義の味方』を目指す彼にとって、救えなかったという事実は何よりも重く沈み込む。
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