西暦編
第一話 あの日@
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その時の再現のように、間桐邸を背にした桜が笑みを作る。
「それでは、失礼します。送ってくださって、ありがとうございます」
「いや。こっちこそ、藤ねえの我がままに付き合ってくれてありがとう。これからも、あの人とうまく付き合ってくれると助かる」
「はい、先輩もあまり無茶はしないでくださいね? 姉さんのことだから、きっと大変な仕事に付き合わされると思いますから」
少しだけ、けれど確かに驚いた顔をした士郎に向けて、
「おやすみなさい、……えっと、え、えみ」
桜が発した、十年前とは違う別れの台詞は、最期まで言葉になる事はなかった。
――不意に、街の灯が消える。
「ッ!? 桜、少しだけ動くな!」
「え? は、はいッ!」
動揺する桜を背に庇い、士郎が周囲を警戒する。
坂の上に位置する間桐邸からは冬木市全域が一望できる。その街の明かりが、ひとつ残らず消えて闇に落ちていた。
大規模な停電だろうか? いや、それにしては周囲に満ちた気配が異常すぎる。
魔術師の手による攻撃か? 魔術師のサーヴァントでもあるまいし、凛に気づかれる隙もなくこれほどの規模の攻撃が可能とも思えない。
ならばサーヴァントの手によるものか? 分からないが、大気に混ざった気配は神代の彼らに勝るとも劣らない。
一つだけ分かることがあるならば、この停電はただの始まりに過ぎないだろうということだけ……!
「――投影、開始」
慣れ親しんだ双剣を両の手に握る。
干将と莫耶、二刀一対の宝具。かつての聖杯戦争で幾度も投影し、その後も戦場で命をかけてきた最も馴染んだ武装。
剣を構え、臨戦態勢を整えた士郎の眼に、初めてその姿が映った。
「――――、なんだ、あれ」
違和感を覚え、空を見上げたのが功を奏した。
街の明かりが消え、満天に輝く無数の星々。
だが不動のはずの瞬きは、不気味に揺らめき大きさを増していく。側溝を泳ぐ蟲のように、近づいてくる様はまるで生き物のようだ。
星は流星雨のように降り注いできた。コメ粒ほどのサイズが、接近するにつれて人間より一回り以上大きいことが分かった。飛来物は不自然な等速を続けながら地表に近づいていき、ボトリと周囲に接地した。
「……魔獣か合成獣の類か? 少なくとも意思疎通は出来なさそうだ」
「敵意はないんでしょうか? けど、ただのキメラにしては、その、」
桜が言葉に出来なかった部分を、士郎もまた感覚で理解していた。
目の前の存在から感じる膨大な魔力。それがどれほどの神秘を持つのかは推測するしかないが、英霊たちやその宝具にも匹敵するかもしれない。
サーヴァントの切り札にも近しい存在が、雨のように降り注ぐ。
魔術師であれば神秘の秘匿を思い卒倒するかもしれない状況だ
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