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勇者たちの歴史
西暦編
第一話 あの日@
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すわけにもいかないから、これも言葉に甘えてお任せする。
「藤ねえも、そろそろ落ち着いてると思ったんだけど、十年経っても変わらずか」
「そうですね、先生はあまり変わってないかもしれません。先輩は、」
 ふと、桜の手が士郎の髪に伸びる。
 白髪交じりの頭に、浅黒く変色した部分が目立つ肌。
「……少しだけ、変わったかも知れませんね」
「そうだな。最近は遠坂にも脅されてたし、正直知り合いに会っても気づかれないんじゃないかって覚悟はしてた」
「身長もだいぶ高くなってますし、何だかちょっと不思議な気分です」
 でも藤村先生はすぐ気づかれたんですよね? と確認する声に、苦笑気味に士郎が頷く。
 野生動物の直感、侮るべからず。大河は一目見ただけで正体を看破したらしく、獲物が気づくより一瞬早く背後からタックルを敢行。薄情者の弟分はあえなく御用となった。
「わたしもびっくりしたんですよ? お掃除してたら、いきなり簀巻きにされた先輩が投げ込まれて、そこからすごい剣幕の先生が入ってきたかと思ったらそのままお説教を始めて」
「……藤ねえには、いろいろ心配かけてるのは自覚してたんだけどな、認識が甘かった。次からは電話くらい、ってこの話は昼間にさんざんやったろ? もう勘弁だ」
 がっくり肩を落とす士郎だったが、クスクスと笑いが収まらない様子の同行人にジトっとした目を向ける。
「そう言う桜の方こそ、結構印象が変わったと思うぞ」
「え? そ、そうですか……?」
「ああ。もともと落ち着いた雰囲気はあったけど、今はすごく、」
 マテ、何かとてつもなくハズカシイことを言おうとしていないか?
 硬直したまま隣を盗み見ると、頬を染めて俯いた桜の姿があった。
 士郎も、今さら気障な台詞一つで赤面するほど初心な経歴ではないはずなのだが、自覚というものは恐ろしい。相手が初対面なら言い捨てで済むのだが、なまじ身内相手にそうはいかない。
 一気に口数も減ってしまい、無言のまま坂を上る。
「…………、…………ぁ」
 間桐邸の大きな鉄門が見えた瞬間、桜の口から安堵と逡巡の入り混じった吐息が漏れた。
 この後、士郎は凛の所へ行く予定がある。
 彼女のことだ、わざわざ海外で活動していた士郎を呼び寄せたのだから大変な仕事になるのは容易に想像がつく。空いた時間も、士郎は震災の後片付けに協力すると話していた。士郎と桜がゆっくり話せる機会は、これで最後かもしれない。
 士郎が桜を家に送るのは実に十年振りのことだ。
 あの時も、藤ねえ――藤村大河が主催した送別会兼宴会の帰り道だった。とりとめのないことばかりを話した気がするが、内容まではよく覚えていない。それきり、冬木に帰っていなかった士郎は桜と接点がなかった。
 冬木を発つ前、二人の最後の会話は別れの挨拶だった。
 ちょうど
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