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勇者たちの歴史
西暦編
第一話 あの日@
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 二〇一七年十二月八日。
 
 灰色の雲が空を重く覆う。
 雪でも降り出しそうな天気だが、この曇天は二年前から続く異常気象だ。
 その間、雪はおろか雨の一滴も降っていない。
 それを不審に思う者も、この冬木にはいない。住民たちは皆『あの日』に起きた出来事を目にしているのだから。
 街を囲むようにそびえ立つ、六本の巨大な柱も『あの日』起きた変化の一つ。
 透明な巨木を模した柱は、近づけば水晶の塊であることが分かる。内部で脈動する赤や青の流動が融解した宝石であることまで思い至る者はいないだろうが、それでも見慣れてしまったという事実に変わりはない。
 そんな柱の一本に、男は――衛宮士郎は立っていた。
 赤い外套をはためかせ、手には黒い洋弓が握られている。陰陽一対の短剣と同様に使い慣れた武装だが、この二年のうちに幾度も使い潰してしまった。
 冬の外気が肌を刺す。
 首のマフラーを巻き直しながら、何かを捉えた士郎の眼が鋭い光を宿した。押し殺した低い声が、忌々しげに言葉を紡ぐ。
「……まったく、懲りない連中だ」
 魔術回路が起動する。身体に満ちる活性化した魔力を感じながら、士郎の脳裏に『あの日』の光景が蘇っていた。
 
 
 
 二〇一五年七月三〇日。
 
 その日、衛宮士郎は数年ぶりに帰郷していた。
 遠坂凛からの協力要請、という名の一方的な協力の取り付けがあったからだが、ともかく中東にいた彼は帰宅後、発生した強い地震の後片付けを方々で手伝っていた。その途中で姉代わりだった人物に捕まり、遠坂邸に向かうことができたのはすっかり暗くなったころだった。
 まさか藤ねえだけじゃなくて、藤村組が総出で参加してくるとは……。
 思わぬ計算違いにため息を漏らすと、後ろからクスクスと笑い声が聞こえてきた。
「なんだ、桜。今日の宴会、そんなに面白かったか?」
「……はい、とっても。先輩がこの街を出てから、一番笑ったかもしれません」
 振り返ると、すぐ後ろで間桐桜が穏やかな笑顔を浮かべていた。
「まあ、藤ねえの腹踊りは予想外だったな。不意打ちもいいところだった」
「わたしや藤村組の人たちは止めたんですけれど、藤村先生、『士郎が、よ、う、や、く、帰ってきて……私は、わたしはぁ! この感情を! もう止められない、止めてくれるな桜ちゃん!』って、強行しちゃって……」
 宴会の一番盛り上がった場面ではあるのだが、三十も半ばを過ぎた女性がする余興としては身体を張り過ぎじゃなかろうか。ちなみに大虎は、一升瓶を何本も空けて今は衛宮邸で夢心地だったりする。
 明日も平日なのに教員の仕事は大丈夫なのか? と少し心配もしたが、若い組員が介抱して連れて帰ると言っていたから大丈夫だろう。宴会の片づけも、今は一人で暮らしている桜を付き添いなしで帰
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