第五次イゼルローン要塞攻防戦6
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「しかし、前進したところで、敵に邪魔をされれば」
「ぎりぎりであったのだろうな。だが、話をしている時間はないぞ」
モニターを見つめたままで、ただ一人――シトレの表情は冴えなかった。
彼だけが冷静に戦況を見ていたのだ。
トールハンマーから逃れられたとはいえ、スレイヤーの艦隊は敵のど真ん中にある。
イゼルローン要塞近くを走る艦隊の総数はわずか、一分艦隊数千程度。
同盟軍が後退したため自由となった駐留艦隊は、被害を受けたとはいえ一万近くの数を揃え、イゼルローン要塞からは防御用の砲撃が間断なく続く。
何よりイゼルローン要塞主砲は、鎖から解かれた巨狼だ。
一撃は免れたが、次こそは逃しはしない。
このままでは壊滅するのは目に見えている。
結局として、寿命が数分ほど伸びただけだ。
「救出の案は?」
尋ねたシトレの言葉に、主任参謀たちは顔を見合わせた。
あまりにもイレギュラーな今回の事態は、主任参謀たちの思い浮かぶ過去の戦術には存在しない。新たに考えるにしても、調べるにしても、そのような時間は残されていない。
少しでも考えればわかることであったが、参謀たちは気づいたのだろう。
絶体絶命の状況は、いまだ終わっていないという事に。
救出のために艦隊を動かすか。だが、それでは一分艦隊を救うために、それ以上の被害が出ることは確実であった。
誰も発言をすることなく、表情が次第に曇っていく。
重苦しい沈黙に、シトレが振り返った。
「解決する策はないか」
「総司令官……」
参謀たちを代表するように声に出したのは、アップルトン中将だ。
重い空気の中で誰も発言を躊躇する状況。
それでも真っ先に言葉にしたのは、責任か勇気か。
だが、口は開いたとしても、最後まで結果を口にすることはできない。
より重い沈黙が下りることになった。
「閣下」
深い、深すぎる沈黙――破ったのは、一段下の空間からだった。
主任参謀たちが集まる位置からは離れた場所だ。
集中する視線の中で、居心地が悪そうに――だが、それでも隠れることなく、堂々と手をあげる。
自らに視線が集中すれば、あげた手を戻して、所在なさげにベレー帽ごしに頭を撫でた。
「一つだけ。考えられていた案があります」
「考えられていた。この事態を予測していたということか」
「はい。敵が味方に向けて主砲を撃った際、どうなるかということです」
「事実か、ヤン少佐」
シトレの視線が、ヤンと――そして、彼の上司であるアップルトンに向けられた。
向けられた視線に、アップルトンは驚いたように。
しかし、向けられた眼差しにしかと頷いた。
「はい。確かに、その可能性があると――作戦参謀では一時的に話題となりました
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