7. 余煙
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あの鎮守府を離れて、数ヶ月が過ぎていた。新しい職場の整備工場にも慣れ始め、俺は戦争から距離を置いた、平和な世界で毎日を過ごしている。
木曾と別れて鎮守府を離れた後、俺は新しい赴任先に到着してすぐに軍を退役した。先方の提督さんからは『腕のいい整備員を手放したくない』ということでかなり慰留されたが、俺はどうしても、あの提督さん以外のもとでは働きたくなかった。退役したあとは海から離れた整備工場に就職し、今ではそれなりに仕事を任されるようになっている。
あの後……木曾とは何の連絡も取れていない。
木曾の居場所は分かっているから、俺も電話や手紙で木曾への連絡を試みたが……木曾からの返事をもらえたことは、一度もない。
木曾と交わしたあの約束は嘘だったのか……あれは俺の一人相撲で、木曾は俺のことを相棒だとは思ってなかったのだろうか……時々そんなことを考えるが……
今の職場の整備場では、常にラジオをつけっぱなしにしている。そのため、時々海のバケモノ共との戦争に関する情報もラジオを通して知るわけだが……状況は決して良くはないらしい。詳しくはラジオも語らないが、戦闘は激化の一方だそうだ。
そんな状況で、あの追い詰められた鎮守府はちゃんと運営出来ているのだろうか……最近は、木曾のことと一緒にそんなことを考える事も多い。
そんなある日のことだった。今日も俺は整備場でラジオを聞き流しながら、自分に割り振られた仕事をこなしていたのだが……
――徳永さん ごめんなさい
ラジオのパーソナリティーのやかましいトークにまぎれて、耳に微かに届く声があった。この声は聞き覚えがある。懐かしいあの小料理屋で、俺の隣で牛乳とポテチに舌鼓をうっていた、あいつの声だ。
その、突然耳に届いた声に少々困惑していたら……
「徳永くん。お客さんだ」
「はい?」
同じく作業着を着てはいるが、デスクワーク中心で普段はあまり顔を見ない部長が俺の前に立っていた。
「客ですか?」
「ああ。なんでも海軍の方らしくて……」
立ち上がった俺に、部長が自身の背後に立つ人影を紹介してくれた。
「提督さん……」
「探した……探したよ。徳永さん」
部長が連れてきたお客さん……それは、見るのも懐かしい。純白の制服に身を包んだ、小料理屋の調理師見習いの、あの提督さんだった。
部長に案内された休憩室のソファに、俺と提督さんで向かい合って座る。ここの休憩室は喫煙が出来る。二人の目の前のテーブルにはガラス製の大きな灰皿が置かれ、少なくない量の吸い殻が溜まっている。
そのそばには、誰かが忘れたのか、まだ充分な本数が残ってるタバコのハードケースと電子ライターが一つ、無造作に置かれていた。
室内に
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