7. 余煙
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い損傷を受けても、必ず帰ってきた」
「……」
「味方にも『みんなで生きて帰るぞ』と言い続けていたが……姉妹の危機に、つい身体が動いてしまったんだろう。姉妹艦の一人をかばって、敵艦隊からの砲撃の雨あられをその身に受けて、彼女は沈んだ」
「……」
「それが三週間ほど前だ」
提督さんが何かを喋っている。声は耳に届くが、何を言っているのかさっぱり理解が出来ない。
額を抱え、俯く。視界が白く白く濁り、何がなんだか分からない。
代わりに、提督さんの声に紛れてかすかに、耳に届くセリフがあった。
それは、あの日の木曾との約束。
――俺が戻るまでにタバコはやめろ
俯いたまま、テーブルに目をやった。テーブルの上には大きな灰皿と、誰かのタバコとライターがある。
――ヤニ臭いキスは嫌なんだよ
震える右手でタバコに手を伸ばし、一本取った。そのまま左手でライターを取り、あの日以来はじめて、タバコに火をつけた。
「……」
途端に、口の中に苦く不快な味が広がり、頭が酸欠でふらつく。久々だからだろうか。タバコが臭く、死ぬほどまずい。
――口の中が……タバコ臭え……ッ
だが、それでも吸い続けた。むせそうになっても吸い、声を殺して煙を吐き、吐きそうになっても煙を吸い、まずい煙を吐き続けた。俺が吐いた煙とタバコから立ち上る煙が、俺と提督さんを包み込んだ。
「……クぁ」
「どうした?」
「ずっと……禁煙してたんで……」
「ならキツいだろうに……禁煙はもういいのか?」
「……もう、意味ないんで」
自分のセリフに、ハッとする。もう意味がない。木曾はもう、俺のもとには戻ってこない。つまり俺が禁煙することは、もう、意味がない。
「徳永さん……」
「意味、ないんで……ッ」
俺が禁煙する意味はもうない。なぜなら、俺と約束した木曾は沈んだから。俺とキスするはずの女は、もう俺のもとには、二度と戻らないから。
一本目のタバコを消し、二本目に火をつけた。胸が気持ち悪く、頭のグラグラが収まらない。それでも、俺はタバコの吸い口から苦い煙を吸い続け、周囲に臭い煙を吐き続けた。
「……提督さん」
「ん?」
「なんで、俺にそのこと伝えてくれたんすか」
「……昔、俺の命令で髪を切ったことあったろ?」
今も思い出す……提督さんからの命令で、髪を切らされたあの日のこと……髪を切った帰りに、木曾に膝枕をされて……
「あれ、まるゆから言われたんだ」
「……なんて言われたんすか」
思ったとおり、あの小僧が裏で糸を引いていたのか……
提督さんは、少しだけ表情を緩め、どこか遠くを見つめながら、懐かしそうにゆっくりと口を開き、まるゆの言葉を教えてくれた。
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