7. 余煙
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立ち込めるタバコの匂いに顔をしかめる。木曾と別れて以来、俺は一本も吸ってない。おかげで最近は、タバコの臭いにも敏感になってきた。不快だとは思わないが、タバコの匂いが鼻につく。
テーブルを挟み二人で差し向かいに座ってしばらくすると、事務の女の子が、俺と提督さんにお茶を運んできた。提督さんはお茶が置かれるなり、笑顔で『ありがとう』と事務の子にお礼を言っていた。その姿を見て、提督さんが相変わらずであることにホッとした。
会釈した事務の子が休憩室から出ていき、ドアがバタンと閉じた。今、休憩室には俺と提督さんのふたりだけだ。その途端に口火を切ったのは、帽子を脱いだ提督さんだった。
「しかし徳永さん……探すのは苦労したよ。まさか退役してるとは思ってなかったから」
「……あんたの元以外で、働きたくなかった」
「徳永さんのその気持ちはうれしいけど……軍全体で考えたら大きな損失だよ」
「あんたを追いつめてるやつらよりはマシでしょう」
そんなつもりはないが、つい棘のある言い方をしてしまう俺と、俺のそんな言葉を苦笑いで受け止める提督さん。実際、この人はキツい環境でよく頑張ってると思う。
「……で、提督さん」
「ん?」
「挨拶するためにわざわざ探してたんじゃないでしょう」
「ああ」
「んじゃ、あんたも俺に慰留するんすか? あんたの元なら考えるけど、それ以外は却下ですよ」
「そうしたいのは山々だけど……違うよ」
提督さんを問い正すが……実は俺は、提督さんがここに来た理由の目星がついていた。……だが、あえて問い正す。なぜなら提督さんに、俺の心当たりを否定して欲しいからだ。
「なら、あんたも退役したんすか。ここで働きたいんすか」
「違う」
――徳永さん
言わないでくれ。俺の予想、外れてくれ。否定してくれ提督さん。かすかに耳に届くまるゆの声は、俺の勘違いだと思わせてくれ。
「んじゃ、何なんすか」
――ごめんなさい
「木曾が沈んだ」
俺の意識に穴が開いた。
眼の前の提督さんの顔が白くぼやけ、見えづらい。何かと聞き間違えたのではと思い直し、もう一度……もう一度だけ、提督さんに問い正す。
「……」
「……すまない、提督さん」
「ああ」
「聞き違いかもしれない……すまない。もう一度……」
「木曾が沈んだ」
聞き間違いであってほしいという俺の浅はかな望みは、改めてハッキリと伝えられた提督さんの言葉で、脆くも打ち砕かれた。
「キミが鎮守府を離れてから、キソーの活躍は目覚ましかった。出撃すれば敵艦隊は必ず殲滅したし、救出作戦に出た時は対象を必ず確保して戻ってきた」
「……」
「何より、『生きて帰る』という執念が凄まじかった。どれだけ困難な任務でも、どれだけ酷
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