第五次イゼルローン要塞攻防戦5
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らだろう。
強い声の代わりに、腕を握る手に力がこもっていた。
「今すぐ、あいつを呼ぼう。この状況になれば、一番の適任は奴だろう」
「無理だ。それは――」
「なぜだ、ヤン少佐。彼のその有能さは理解しているはずだが」
「彼が有能か無能かの問題じゃないんだ。彼は、彼は……いまあそこにいる」
遠くを見る視線が見つめるのは、最前線の戦場。
後退命令が伝わったのであろう、慌ただしく陣形を乱し始めたさらに先だ。
ワイドボーンが瞬いた。
指示された場所を見て、ヤンの顔を見て、もう一度最前線をみる。
「あそことはどこだ。ヤン・ウェンリー。俺には見えないぞ」
怒りを押し殺した言葉に、ヤンはもう一度、最前線を――腕をあげて、指示した。
「あそこだ。第五艦隊分艦隊旗艦ゴールドラッシュ。その艦上だ」
「な……何を馬鹿なことを」
「事実だ」
「ヤン。なぜ、止めなかった」
「止められるはずがない。既に上の許可を得ている、私が動いたところで」
ヤンの言葉は最後まで語れなかった。
ワイドボーンの太い腕が、彼の胸元をつかんで引き寄せたからだ。
軽々とヤンの体は浮いて、背の高いワイドボーンの顔に近づいた。
「止めなかったの間違いだろう、ヤン・ウェンリー。貴様はそれほどまでに軍の命令が絶対か」
「あたり前だろう」
「ならば、なぜ止めなかった。進言して、その上から命令を取り消すことだってできただろう」
「軍人としてそんなことはできない」
「イレギュラーだとでも言いたいのか。貴様の言葉はできない、やれないばかりだな。それで後輩を見殺しにするのか」
握りしめた拳は、しかし、ヤンにたどり着く前に止められた。
「落ち着きたまえ、ワイドボーン少佐」
彼の手をつかむ、細い手が阻止したのだ。
だが、それは見た目よりも遥かに力強く、見れば銀色の髪をした男がいる。
背後にはワイドボーンに引けを取らない大柄な男がいた。
他の戸惑う視線とは別にして、申し訳なさそうな表情にワイドボーンは熱を失ったように、手を離す。
「何もできなかったのは我々も同じだ。ヤン少佐だけを責めないでくれ」
「アロンソ中佐……」
自由となって、ヤンが小さくせき込んだ。
慌てたようにパトリチェフが、ヤンに駆け寄って、背中をさする。
だが、ワイドボーンは見ていない。
代わりにとばかりに、睨むのはアロンソだ。
「あなた方もご存じだったのですか」
「だが、どうにもできなかった。責めるなら、私を責めてくれ。階級としてはそれが正しい」
「……いや、失礼した」
アロンソの丁寧な謝罪の言葉に、ワイドボーンは持ち上げた手をおろす。
軍ではヤンの言うように、直属の上司の命令が絶対である。
ヤンにはイレギュラーを求
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