6. 香煙
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やかな笑顔になる。
「……そうだ。徳永さん」
「あ?」
「今日、これからキソーは夜間の作戦に出撃しなきゃいけない」
「……」
「よかったら、最後にあいつの艤装を整備していってくれないかな」
「……」
「頼むよ。キソーは今、整備場で徳永さんを待ってるはずだ」
そんなはれやかな笑顔で何を言うかと思えば……今だけは、提督さんのその清々しい笑顔が、妙に癪に障った。
執務室を後にした俺は、苛立ちを提督さんにぶつけてしまった自分への腹立たしさを抱えたまま、整備場へと足を伸ばした。あまり待たせるのも、あいつに悪い。
整備場に入り、周囲を見回す。夕方のオレンジ色の日差しが差し込み、整備場は濃いオレンジ色に染まっている。
整備場の、俺の作業スペースにある椅子に、そいつは腰を下ろしていた。始めて出会った時と同じく、黒の制服を羽織り、腰にはサーベルをぶら下げて。
腕を組み、俯いて静かに俺を待つ木曾の全身から、あのときのような、妙なプレッシャーを感じた。懐かしい……初めて言葉を交わしたときのことを思い出す。
「……木曾」
俺のつぶやきが耳に届いたか。木曾は顔を上げて俺を見ると、今度はいつものように、ニッと微笑んだ。木曾にジッと見つめられながら、俺は自分の作業スペースへと歩み寄り、そして目の前に置かれた、木曾の艤装をジッと見る。
「……よう徳永。待ったぜ」
「……」
「俺はこの後、出撃しなきゃならない。艤装の調整と整備を頼む」
「出撃は何時だ」
「夜中だ。だからお前がここを離れるまでなら、どれだけ時間をかけても問題ない」
「……わかった」
「最後の調整だ。頼んだぜ。相棒」
木曾が立ち上がり、椅子を空ける。代わりに俺が椅子に座り、そして工具箱からレンチを出した。
「……長丁場になる。ちょっとタバコ吸わせろ」
「ククッ……禁煙してたんじゃねーのかよ」
「うるせえ。あれは小僧の前でだけだ」
「女なんだからまるゆって呼んでやれって言ったろ」
木曾と互いに軽口を叩きながら、タバコを咥えて火をつける。途端に周囲にタバコの煙が充満し、俺と木曾の身体を包み込んだ。
俺の煙が立ち込める中、俺は木曾の艤装をジッと見つめる。一見して、あまり不調そうな部分は見受けられないが……俺はタバコの火を消し、吸い殻を足元の灰皿へと捨てた。
「おい木曾。これ、言うほど調子悪くはねーだろ」
「だな」
「だったら別に今調整しなくても……」
「やってくれよ。最後なんだろ?」
「……」
「……頼むよ。いくらでも待つからさ」
……そこまで言うなら仕方ない。恐らくこれが、俺がこいつにしてやれる最後のことだ。細部まで徹底的に、調整と整備を行うことに決めた。
「わかった」
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