5. 残煙
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督さんの顔が曇ったからだ。
しばらくの沈黙の後、提督さんが重い口を開いた。その間、店内にはアナログ時計の針の音だけが鳴り響いていた。
「……続けるよ。それが彼女の望みだから」
「そうか……」
喉の奥底から絞り出すようにそう答えた提督さんの笑顔は、今にも大声を上げて泣き出してしまいそうな……そんな、歪んだ笑顔だった。
そんな印象的なことがあって数日後のことだ。その日俺は昼からのシフトで、昼飯を食った後、整備場へと出勤したのだが……その整備場に、ちょっとした異変が起こっていた。
「……なんだこれ」
仲間の整備員の人数が、どう考えても普段の半分以下になっている。元々ここの鎮守府は激戦区にも関わらず、整備班の人数がかなり抑えられていた。ギリギリの人数でなんとか回していた仕事量だっただけに、人数が半分以下では仕事が回らない。
インフルエンザか何か……もしくは新手の病気でも流行したのかと思い、いつもの同僚に事の次第を聞いてみるかと、そいつの作業スペースに足を運んで見たところ……
「……なんかさ。人員削減するってさ」
と、にわかに信じられない事実が突きつけられた。
「……マジか」
「そうらしい。ここの鎮守府、艦娘の轟沈が頻発してる割に補充はないだろ? そのせいで規模が段々小さくなってる」
「……」
「それで、規模に合わせて整備員の人数も縮小するそうだ。今いないやつらは大体他の鎮守府に行ったか……もしくは辞めてる」
「妖精もいないだろ? その上俺たち整備班まで縮小されて、ここ回るのか?」
「知らねーよ……俺にも異動の辞令が下りたし、身の振りを考えなきゃ……」
そう言いながら艤装の汚れを磨き落としている同僚の顔には、なんだか憤りに近い感情がにじみ出ていた。なんだかんだこいつもこの鎮守府に慣れ親しんでいた。ここを離れるのは、納得がいかないようだ。
「……でもお前は大丈夫だろ。艦娘からご指名されてるんだよな?」
「ああ。二人からだけだが……」
誰にも言ってないはずの木曾とまるゆからの指名をなぜこいつが知っているのか……と不思議に感じたが、考えてみれば、あいつらの艤装は必ず俺のところに回されてくるし、あいつら二人は必ず艤装に一言手紙を残してくれている。それを見てれば、俺が二人に指名されていることも分かるか……と考え直した。
自分のスペースに向かうかと俺が振り返った時、俺のスペースに置かれている艤装が、一人分足りない事に気づいた。
「なぁ。そのご指名のやつの艤装が一つ足りないんだが。まるゆは昨日の出撃は損傷なかったのか」
そう。木曾の艤装はいつものように俺の作業スペースにポンと置いてあるのだが……もうひとつ、まるゆの主機と艤装が足りない。遠目からでも、
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