アインクラッド 後編
血路にて嗤う
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返事で僕を討伐隊に入れてくれました。僕がラフコフと通じているとも知らずに」
堰を切ったように言葉を飛ばし続ける。自分で自分の管制が効かなくなってきたのか、徐々に身振りが大きくなり、抑えきれず滲み出した強い感情を孕んだ声が狭い通路に反響する。
「奴等は愚かにも勘違いをしてるんだ。『俺たちはまともだ、俺たちは殺人者とは違う』ってね。馬鹿馬鹿しい。人間なんて、ただ一つ、ただ一度のきっかけだけで変わってしまうものなのに!」
「御託はいい。エミは、どこにいる」
「……やっぱり、彼女は助けたいんですね。僕の仲間たちは見殺しに――いや、自ら手を下したのに」
トーン・ダウンしたジュンが面白そうに目尻を下げる。今にも涙が零れ落ちそうだ。
「別に皮肉を言ってるんじゃないですよ。むしろ感謝してるんです。苦労して捕まえた餌に興味を示されなかったら悲しいですから」
「質問に答えろ」
「この奥に居ますよ。ただ、一緒にいるヤツは子供みたいな奴なんで。欲望に忠実って言うんですか、あれだけの美人を前にして、どれだけ『待て』が出来るか分かりませんね」
「お前……!」
沸騰するような怒りがマサキの全身を支配した。右手が脳の指令を待たずして蒼風の柄を握る。視界いっぱいに広がったジュンの顔が、心底面白そうに歪んだ。
「その程度じゃない。そんな程度じゃないんだよ、僕らが受けた苦しみは……!」
ジュンが背負った大太刀を抜き放つ。この世の闇全てを吸い込んだような黒い刀身がぎらりと光り、ジュンの顔から感情がすぅっと消え失せる。しかしマサキを射抜かんとする鋭い眼差しと、襲い掛かろうとする自分を必死にその場に止める深く長い呼吸から、仮想の空気さえビリビリとひりつくような怒気が滲む。
マサキは一度ぎゅっと瞼を閉じ、改めてジュンをレンズ越しに睨み付けた。小さなガラスの片隅にエミの顔が浮かんだような気がして、柄を握る右手に力が入る。
「殺してやる……!」
零れるようなジュンの呟きを合図に、マサキは地を蹴った。
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