アインクラッド 後編
血路にて嗤う
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マサキ君……っ」
マサキ君、マサキ君――もう、誰の声も聞こえない。わたしには、この世で一番安心する名前を念仏のようにひたすら唱え縋りつくことしかできなかった。
SAOに存在するメジャーなPK方法の一つに《ポータルPK》というものがある。回廊結晶の転移先が固定であることを利用して事前に罠を張り巡らせたり、大勢で待ち伏せたりして行うPKだ。これに引っかかるのを避けるため、信頼できる人間が設定したもの以外の回廊結晶を使用することはご法度というのが今のSAOでは常識となっている。当然マサキもその知識は持っていたし、エミを餌におびき寄せて大勢で嬲り殺すなんてことは奴等にとって大好物だということも少し考えれば分かることだったが、その可能性を考慮する前にポータルへ飛び込んでしまった。それはひとえにマサキの死に対する危機感が欠落しているからであり、マサキというプレイヤーだけが持つ、その他のプレイヤーとの明確な相違点だった。
一瞬漂白された視界に、再び色が戻る。
苔むした石のぬるりとした感触が足の裏に伝わり、マサキは滑らないよう膝を折って着地した。完全に静止したのを確認してからゆっくりと立ち上がる。人二人が肩をくっつけてようやく通れるほどの狭い通路で、上下左右が綺麗な平面で構成されていることから人工物であろうことが想像できる。
幸いなことに、罠が発動する気配も、大勢のレッドプレイヤーが襲い掛かってくることもなく、エミの姿もそこにはなかった。ただ一人、ねずみ色のフード付きコートを着た人物が、幽鬼のように佇んでいた。
「来ないかと思いました」
マサキよりも幾分高く、幼さの余韻を残したような声。その声をマサキは聞いたことがあった。
「ジュン、だったな」
「……驚きました。覚えてたんですね」
五十層のフロアボス戦で仲間を失った最後の一人。マサキに憧れていたと子供のように言った少年は、皮肉ではなく本当に驚いたという風に言って、顔にかかったフードを取り払った。マサキの記憶にある姿よりも前髪が伸びていて、身にまとう雰囲気も大人っぽく変わっていた。擦れた、と形容した方が正確かもしれない。
「『血盟騎士団』に入ったと聞いた」
「ええ、その通りです。ひたすらレベルを上げて、技を磨いた。今日この日の為にね」
ジュンがコートを脱ぎ捨てると、その下から血盟騎士団のユニフォームである紅白の鎧と、背中に背負われた彼の身長ほどもある大太刀が現れた。マサキの記憶ではもっと短い刀を使っていたが、あの後で新調したのだろう。
ジュンは瞳孔を目一杯開いて、狂気に侵されたように顔の左半分だけを歪ませた。
「攻略組最強だとか言われていても、所詮はアマちゃん集団ですよ。副団長も、『僕のような人間を増やしたくない』って直訴したら、二つ
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