アインクラッド 後編
血路にて嗤う
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」
「あんなやつに『穹色』の処理を任せちまって。つか、あいつ本当に殺れるんスかねぇ?」
「ハッ、そんなことか。いいんだよ別に、どっちが死んでもな」
「なーるほどぉ、さすがヘッド!」
「……マサキ……君……?」
どこか和気藹々とした雰囲気さえ感じられるやりとりの殆ど全てがわたしには聞こえていなかったが、微かに聞こえた『穹色』が、マサキ君を指していることだけは理解できた。
「もう少し待ってりゃ、お前のPrinceが現れるかもな? ま、だとしてもここで殺すんだが」
「うひゃひゃ! ヘッドの鬼―!」
「馬鹿、こういうのはDirectorって言うんだよ。苦労してでっかい餌まで取って来たんだ、ちったあ頑張ってもらわねぇとなァ?」
その言葉で、わたしがマサキ君をおびき寄せるための存在であることを知った。
怖くて。悔しくて。でも、それなら本当にマサキ君が来てくれるんじゃないかって希望が胸のうちに広がって。そんな自分が、何よりも憎らしいと思った。
「っ……」
だから。
「っ、残念でした! わたしにそんな価値はありませーん! 大体、わたしがどんなにアピールしても振り向いてくれなかったのに、命かけてまで助けにくるわけないでしょ? バカなの!?」
「ンだとこのクソアマァ!」
助けを求める声を押し殺し、胸の奥に残った出涸らしの勇気と意地を振り絞って叫んだ。それに激高したジョニー・ブラックの膝がわたしの鼻筋を正面から捉え後頭部が壁に直撃。濁った呻き声を上げて反動で顔をだらりと伏しつつも、わたしの胸には小さな達成感が渦巻いていた。
「止めろ。……ッハ、中々Movingな啖呵だったぜ。気の強い女は嫌いじゃあない。……ところで、睡眠PKは知ってるよな? アレは単純な手口だが、だからこそ色々応用が利く。例えば――」
この瞬間までは。
「『倫理コード解除設定』とか、な」
その言葉までで、わたしはPohの言いたいこと全てを完璧に把握した。倫理コード解除設定とはオプションメニューの奥深くに存在する項目であり、その名の通り倫理コード――即ち普段倫理コードで禁じられている他人との深い接触を解禁するためのオプションだ。そしてプレイヤーの睡眠中にウィンドウを操作しデュエルを受諾させることでPKを行う睡眠PKの応用ということはつまり、プレイヤーが眠っている間にウィンドウを操作し、倫理コード解除設定を操作する、ということ。言い換えれば、わたしの女性としての尊厳の全てを握ったと、そういうことだ。
そしてその一言で、わたしに残されていた僅かな勇気も砕け散った。
「い、や……嫌ぁ……っ」
かつて経験したことのない恐怖が背筋を駆け巡り、震える奥歯が擦れてカタカタと音を鳴らす。
「嫌……助けて、
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