4. 暮煙
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にも礼儀ありという言葉を、こいつにも教えてやりたい気分だ。
「まるゆにまで言われて形無しだなぁ徳永?」
木曾の手が俺の髪から離れた。そのまま目の前のおちょこを手に取り、静かにそれを煽る木曾の横顔は、眼帯のせいもあって中々に表情が読みづらい。
だがいつになく鮮やかに見えるこいつの唇は、いつものようにニッと笑っていた。
その翌日。俺の作業スペースにまるゆがやってきた。珍しく一人で、周囲を警戒しながらだが。
「おう小僧。どうした?」
「……」
「お前の艤装の調整は済んでるぞ。木曾のやつの調整も今終わるところだ」
ちょうどその時、俺は木曾の艤装の調整が終わりそうなところだった。これが終われば、次は金剛型のやつらの艤装の調整をしなきゃいかんわけだが……
眼の前のまるゆは、何やら落ち着きがなく、周囲をキョロキョロと警戒しながら立っている。両手を後ろに回していて、背後に何かを隠しているようにも見えるが……
「……よし。木曾さんはいない」
「ん?」
意を決したらしいまるゆが、自分の背後に隠していた一枚の紙を、俺の目の前につきつけた。
「? なんだこれ?」
「えっと……徳永さん」
「ん?」
「隊長からの命令ですっ」
「お、おう」
そんな不穏がセリフとまるゆの妙に鬼気迫る表情に押されつつ、俺はその紙切れを受け取った。
目を通すと、確かにそれは提督さんから俺に対する命令書だ。正式な書式に乗っ取ったそれは提督さんの署名捺印もあり、正規の命令書であることが見て取れる。
だが、肝心のその内容は、俺を困惑させた。
「……おい小僧」
「小僧じゃなくてまるゆですってば」
「お前、提督さんに何を言ったんだよ」
「秘密です」
俺の視界は命令書にフォーカスされているから、まるゆがどんな表情をしているのか、まったく見えなかった。
その命令書には、『本日、徳永吾郎は散髪し、髭と身だしなみを整えること』『そのため、木曾とまるゆの艤装の調整が終わり次第、鎮守府内美容院“サウダーデ”へと向かうこと』とあった。
「これで徳永さんも、仕事を気にせず髪を切れますね!」
「でも俺、美容院なんか行ったこと無いぞ。男の俺が行っても大丈夫なのか?」
「ぇえー……行ったこと無いんですか徳永さん……」
「いっつも床屋だったからな」
正規の命令書なんて出されてしまったら、髪を切らない訳にはいかない。仕方なく俺は、木曾の艤装の調整が終わったところで後の仕事を同僚に引き継ぎ、美容院へと向かう。
はじめて訪れる鎮守府内美容院は、とてもスッキリと落ち着いた店内で、いかにも女受けしそうな内装だ。立ち込める匂いは床屋にとても似ているが、もう少し華やいだ感じがした。
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