第五次イゼルローン要塞攻防戦4
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イゼルローンの第一壁が閉じる寸前――見えるのは、敵艦隊と味方が入り混じる、酷く無様な様子であった。
兵力差で、駐留艦隊は敵の第五艦隊と第八艦隊に頭を捉えられて、逃げ出すことができない。自由となった第四艦隊が、イゼルローンに対して、まさに苛烈な攻撃を加えている。
撃ち込まれる無人艦が、ミサイルが――容赦なく、要塞に降り注ぐ。
いかに液体金属で、敵の主砲をふさいだところで意味が無い。
破壊の炎は容赦なく、要塞の外壁を破り、内壁で作業をしていた整備兵を虚空へと吸い出して言った。
「ラインハルト様――早急に中へ」
その状況を理解しているのは、親友だけだ。
他の者たちは宙港へと引き込まれた時点で、安堵の息を吐いている。
生きて帰ってくることができたと。
ともすれば、この時点でミサイルが外壁に着弾すれば、終わりになることなど理解できていない。それほどに分厚い外壁と、イゼルローンの名前が彼らに安堵をもたらせているのだろう。
ラインハルトにとっては、それを非難することはできない。
それすら理解できない、愚か者がいるのだから。
ラインハルトは――キルヒアイスにも、いや、まして部下にも向けたことがない、冷ややかな視線を後方へと向けた。
そこには撤退が始まってから、叫ぶように非難する声を張り上げていた人間がいる。
いかに周囲を安心させる役割があったとはいえ、命をかけた戦場ではうるさすぎる。
ドッグに収まってもなお、補助ベルトから手を放さない人間がいる。
それがあったとしても、死ぬときは一瞬。それを理解していない凡愚。
それでいて視線だけは一人前に、憎悪を向けてきている。
「……その前に片づけなければならないな」
小さく出した言葉に、キルヒアイスは小さく緊張の色を浮かべた。
それまでの軽さを一切含まぬ言葉。
まっすぐな視線を向けられて、ラインハルトは瞳を伏せた。
「キルヒアイス――俺は……」
「ラインハルト様」
ラインハルトの言葉を止めたのは、赤毛の少年。
わずか十六という若い年齢――だが、ラインハルトを見る、そこに若さは――弱さはなかった。
「あの凍土の戦場で――私は、あなたを失うかと思いました。あの時、こちらを見ていたのは――死神でした」
「…………」
「あの時まで――私はどこか他人事だったのだと思います。ラインハルト様は完璧で――死ぬことなどないのだと。そう信じてきました」
当然だと笑いそうになった言葉は、キルヒアイスの真剣な表情にかき消された。
「ですが……」
「それ以上はいい。私も理解している」
いつか肩に置かれていた手を、ラインハルトは握った。
凍土の戦場――それまで馬鹿にしていた男の犠牲がなければ、生きていなかった戦場。
自
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