3. 人煙
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らが俺のことを指名する。……つまり、俺の腕を認めてくれているということだ。昼間の木曾の言葉をそっくりそのまま流用すれば、こいつらは俺に対して、『命を預けても良い』と思っているということになる。
逆に言えば、俺はこれからの仕事で、ミスが許されない、気が抜けない立場になったというわけだ。こいつらの命は、俺の腕にかかっている……。
「しゃーない……お前らの艤装は、俺に任せろ」
「わーい! ありがとうございます徳永さん!」
「口に牛乳ついてんぞ小僧」
「だからまるゆですって……」
「……ありがとな、徳永」
「おう任せろ。今日みたいなことには、もうならねーよ」
「ああ。お前が調整してくれてるってだけで、安心して出撃出来るぜ」
両手を上げてはしゃぐまるゆに比べ、木曾の喜び方は静かだった。
だが喜びは本当らしく、木曾はいつも笑顔をニッと浮かべた後、自分が持つ酒が注がれたおちょこを、俺が持つコップにチンと軽くぶつけてきた。
「……」
「……ん? どうした徳永?」
「……いや」
その音は、俺の耳には、妙に美しく響いた。
翌日、俺がいつものように整備場の自分の作業スペースに出勤したら、見慣れた艤装が2つ、置いてあった。
「……?」
荷物をおろし、椅子に腰を下ろして2つの艤装を確認する。……まるゆと木曾の艤装だった。
「よっ。お前ご指名らしいな」
同僚の一人が、すれ違いざまにニヤニヤと笑いながらそう言い放っていく。それぞれの艤装には、一枚ずつ紙切れが貼り付けてある。それをペリッとはがし、目を通した。
「……ぷっ」
目を通し終わった後、その手紙を壁に貼り付け画鋲で固定した。
貼り付けたそれらをひとしきり眺めた後、今日の仕事の準備を始める。軽くストレッチをした後、工具箱からレンチを一本取り出した。サイズは13ミリ。
まずはまるゆの主機からだ。2つの艤装のうちまるゆの主機を手にとって、俺は丁寧にボルトの一本をゆっくりと緩め始めた。
――今日からよろしくおねがいします まるゆ
――主砲の照準が少しだがずれてる気がする よろしく頼む 木曾?
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