392部分:第二十九話 壊れてしまったものその十一
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第二十九話 壊れてしまったものその十一
「それは駄目かしら」
「有り難う」
椎名の返答はこれだった。御礼であった。
「それじゃあお言葉に甘えて」
「うん、じゃあね。けれど」
「けれど?」
「別にいいわよね、これって」
ふとだ。戸惑いも見せる月美だった。その戸惑いを顔に浮かべたままでだ。椎名に対して話した。
「かけがえのない相手が二人いても」
「恋人は一人でないと駄目だけれど」
「友達はいいのね」
「何人もいていい」
そうだと月美に話すのだった。
「何人でも」
「そうなのね」
「そう。多ければ多いだけ幸せになれるもの」
それが友達だというのである。
「多くなくてもそれでも」
「それでも?」
「深ければいい」
これもいいというのであった。
「深い絆を築けるということは」
「いうことは?」
「幸せなこと」
「幸せなの」
「そう、それだけの元があるから」
それでだと話す椎名であった。
「幸せなの」
「そう。じゃあ私も」
「一緒に築こう」
また自分から月美に告げた。
「今から」
「二人で築くものなのね」
「だから絆」
「絆は一人じゃできない」
「そう。二人でお互いに」
話していく。月美の顔を見上げながら。月美も小柄な方だが椎名はその彼女よりさらに小柄だ。だからそうなってしまうのである。
それで見上げてだ。月美に言うのだった。
「そうしていこう」
「うん、じゃあまずはね」
「港に二人でね」
「行こう」
こう話してだった。二人でその港に向かった。そこは。
夜の濃紫の空に赤や青、白の星達が瞬いている。そして前からは波音がする。二人は今は暗いコンクリートの上に立っている。
そこに立ってだ。まずは椎名が言うのだった。
「どう?ここ」
「お昼に来てもいいけれど」
彼女の横にいるその月美が答えた。
「夜に来るとそれで」
「全然違う」
「そうね。全然違うわ」
実際にそうだという月美だった。ここで風が吹いてだ。
月美のその長い髪を揺らした。椎名は今度はそれを見てだった。
「今の」
「今の?」
「そう、今の」
月美に今かけた言葉はこれだった。
「今みたいに風が吹けば余計にいい」
「髪の毛が揺れてなのね」
「そう、それで相手はぐっとくる」
表情は変わらないが楽しそうに話すのだった。
「髪の毛もまた刺激剤になるから」
「刺激剤だったの」
「そう、髪の毛は女の子の命」
「それは昔から言われてるけれど」
「余計にそうなる」
月美を横目で見ながらの言葉だった。
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