巻ノ百四十八 適わなかった夢その十二
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「今もそうらしい」
「今もですか」
「うむ、明の今の帝もな」
「贅沢に溺れて」
「何と碌に朝議にも出ぬそうじゃ」
「政をされておらぬのですか」
「それであちらの朝廷はどうしようもなくなっておるらしい」
肝心の皇帝が政を放り出し贅沢に溺れている様な有様になってというのだ。
「何十年もの間な」
「それは酷いですね」
「それでは国が亡ぶ」
秀忠は顔を曇らせて述べた。
「余はそうしたことはせぬ、そしてな」
「これからの幕府は」
「明の今の皇帝の様なことをしてはならぬ、あと隋の煬帝は知っておるか」
「確か異朝のかなり前の」
「うむ、贅沢だけでなく無闇な戦までしてな」
「国を滅ぼしたとか」
「そうした皇帝は特にな」
秀忠は確かな声で述べた。
「ならぬ様にしたいな」
「そうですね、天下万民の為に」
「そこはな」
「はい、しかし」
「しかしですか」
「それは代々教え伝えていこう」
幕府にというのだ。
「そのこともしていこう、ではな」
「お酒を少し飲まれ」
「今は休もう」
秀忠は酒を自分の言葉通り少しだけ飲んでそうしてだった、お江と共に休んだ。彼は妻はお江だけだったので常に彼女と共に寝ていた。
だが寝る前にだ、ふとお江にこう言われた。
「子達のことですが」
「まずは千か」
「やはり」
「うむ、右大臣殿はああしてな」
「公にはですね」
「死んだことになっておるからな」
秀忠も応えて言う。
「だからな」
「新しいご夫君をですか」
「迎えさせてやらねばな」
「そうなりますね」
「そして将軍はな」
「竹千代ですね」
「あの者にする、もうそれはじゃな」
「はい、妾もです」
お江は秀忠に慎んで述べた。
「それでいいと」
「国松は可愛いがな」
「可愛いですが最初からわかっていました」
「竹千代は長子じゃ」
即ち嫡男だというのだ。
「だからな」
「もうこのことは」
「決まっておる、春日局もおるが」
「既にですね」
「もう竹千代が生まれた時から決めておった」
「次の将軍は竹千代と」
「その様にな、それでじゃ」
さらに話す秀忠だった。
「国松はやがて駿府にでもじゃ」
「封じて」
「大名としてな」
「そこで働いてもらいますか」
「そうしよう」
これが秀忠の考えだった。
「是非な」
「それでは」
「その様にしよう、しかしな」
「兄と弟は」
「余はそうならずに済みそうじゃが」
「あの九郎判官殿の様に」
お江は暗い顔になり源義経のことを話した、どうしてもこの人物のことを思い出してしまったのである。
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