大学生そうゆな
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たしかし敵意に満ちたそんな声が男の耳に届いた。咄嗟に振り向こうとしたらいつの間にか男は幸奈から離れていた。
「どうも、幸奈さんを介抱してくださるつもりだったようで申し訳ありません」
何が起こったか分からず呆けている男の目の前には長身の、しかし細身で見るからに軟弱そうな長い前髪で右目を隠した優しそうな黒髪の男が先程まで肩を貸していた筈の美少女を両腕で抱き上げていた。
当の彼女はその男の腕の中で幸せそうに、可愛らしい寝息を立てながら眠っている。
「……き、君は誰だ? 取り敢えず、桐凪ちゃんを返してくれないか」
そんな質問をしなくても、男は目の前で幸奈を抱き上げる青年が誰かを理解しているが限りなく低い希望に賭けて強く出る。
「ああ、すみません。お初にお目にかかります、幸奈さんの恋人の空浪奏輝と申します。
返せ、と言われても彼女はモノではありませんよ。仮に所有権が発生するなら『俺の』でしょう?」
ニコニコと淀みなく静かに優しい口調で奏輝は男の質問に答えた。しかし、その言葉を聞いた男は背筋が凍るような思いをしていた。
「……ああ! 君が桐凪ちゃんの彼氏君か! そうそう酔い潰れちゃったから何処か休めるところへ連れていこうと思ってたんだ!」
まるで「いい人」を演じるかのように男は嘘とも真実とも取れない事を喋り始めた。
「そうですか。ちなみにこの道を通っていたようですが、ここからは住宅街で店はコンビニくらいしかありませんよ? もしかして引っ越してきたばかり……いえ、そんな事は有り得ませんよね。経営情報学部四年生の葛原尚哉先輩?」
「それは…………」
「答えなくても大丈夫ですよ。大体分かりますから」
依然として奏輝は笑顔で、しかし追い詰めるように会話を進める。
「そ、それじゃあ、オレはここで──」
「もう少し時間を頂けませんか? 幸奈さんをこんな時間に、こんな所まで運んで頂いたお礼と謝罪……そして先程の歓迎会で少し聞きたいことがあるので」
「わ、わかったよ……」
そして、男──葛原はここで断らずに留まった事を直ぐに後悔するハメとなった。
「先ずは介抱ありがとうございました。そしてお手を煩わせてしまい申し訳ありません。俺がもう少し早く来ていればよかったのですが……」
「そんな気にする事じゃないよ……オレも桐凪ちゃんがお酒ダメなの知らずに、進んで飲もうとするのを止めなかったからね……」
「……幸奈さんが、酒を自分から?」
会話を進めていくにつれて葛原は奏輝の冷たさが引いていくようなそんな感覚を覚えた。
「そうなんだよ。きっと盛り上がった空気に流されて、そういう気分になったんだろうね」
それを好機かと思ったのか、あくまで自分は悪くない。と嘘で塗り固めた
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