なんか出てきちゃったお蔵入り短編
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戦争とは利権の奪い合いだ。
ダイヤの取れる鉱山を、広い海を支配する権利を、宗教的歴史的に重要な土地を――あらゆる利権を我が物にするために、指導者たちは戦争を起こす。例えそれが人種差別の末の独立運動であっても、人権もまた利権であることに変わりはない。
暴力、支配、君臨。トップに立つのが人間であろうが神であろうが、惨めな生き方は誰だって嫌なものだ。だからより地位を、権力を、豊かさを求める。他人の物ばかり羨み、奪い合う。その過程で戦争が起きるのは当然で、人の血が数多に流れるのは普通で、その中から奴隷――あるいはそれに類する存在が生み出されることは自然だ。
俺はそんな存在の一つとして生きてきた。
親の顔は知らない。人並みの生き方など知らない。ただ、敗戦国の国民だったという理由で額に奴隷の烙印を押された。感情を表に出さず、苦痛に耐え、ただ従順にあらなければならないことを周囲の様子から学び取り、そうしてきた。そうしなければ苦痛が更に大きくなるのだと学んだからだ。
やがて奴隷は戦場での捨て駒として先陣を切らされる存在へとなった。逃げれば捕まり処刑される――だから俺はそれまで隣にいた奴隷が死のうが、相手が自分の振るった槍に喉を貫かれて絶命しようが、必死に戦った。死への恐怖と、戦闘という極限状態による頭をかち割りたくなるストレスの波。汗も涙も、涎も鼻水も小便も糞もゲロも、出る物は全て漏らして、それでも俺はみっともなく生き延びた。
やがて俺を隷属させていた国が敗北した。勝った国はこちらよりはマシな指導者だったらしく、支配された国は前の国より良くなった。だが、俺のような生き延びた奴隷たちへの差別や偏見が無くなる訳ではないし、元より俺達には行き場所がない。自然と奴隷たちは一カ所に集まり、金を稼ぐ方法を模索することになった。
取れる手段は少ない。昔と同じく奴隷同然の労働環境でいいから職を求めるか、それとも賊に身をやつすか――生活する術を知らない奴隷たちではそれが精いっぱいだった。そんな折、新たな母国となった国から『傭兵』の募集の御触れが出された。
金で雇って戦ってもらう兵士。そのようなものがあるのかと思った。使い捨ての兵士であることにはそれほど変わりないが、『生き残れば金がもらえる』、『武器を持参すればだれでも参加していい』という部分に吊られた俺達は傭兵に身をやつすことになった。
戦争に参加する側になると、今までに見えなかった様々なものが見えてきた。
利権を求める国同士の諍い、神同士の喧嘩。殺人を職にする戦士たちの金と命に対する嗅覚。そして、今までは出来なかった「旗色が悪くなったら逃げる」という縛られない戦術。俺達は戦争に参加して次々に死者を出しながら、戦いの術を体と頭に刻み込んでいった。
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