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ラジェンドラ戦記〜シンドゥラの横着者、パルスを救わんとす
第二部 原作開始
序章 王都炎上
第十六話 狂猴退場
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。どちらがそうかなど言うまでもあるまい。
「あ、ありえん…、一体どれだけの距離があると言うのだ」
ボードワンの呻きはそれを目撃した全ての者の思いを代弁したものであったろう。
驚愕から立ち直ったルシタニア兵たちが幾本もの矢を城壁の上の先程の矢を放ったと思しき者たちへと放つ。が、当たらない。命中するどころではない。城壁上にすら届かない。
間もなく、城壁上の二つの人影はいずこかへ消え去った。我らはそれを見ていることだけしか出来なかった。
◇◇
「…ったく、女の細腕でよくあそこまで届くものだぜ」
いつも俺、ギーヴはこのラクシュの弓の腕に驚かされている。俺ですらしんどいこの距離を、この娘はまたいつものようにろくに狙いも定めず瞬時に射た。それであのギャンギャン吠えて動き回ってた狂い猿みたいな奴を射倒すとはな。
「フッフッフッフー、私のこの体は弓を引くためだけにあるのさー。その分他のことは及第点がやっとでねー。お母さんには頭領の娘がそんな事でどうするのかと嘆かれたもんさー」
後半はひどくほろ苦い口調だった。しゃがみこんで、地面にのの字を書きまくっている。…大丈夫、きっといい事あるさ。
少しの間そうしていると二人の官吏が足早に近づいてきて、俺たちの前にひざまずいた。
「王妃様のお召しでございます。弓の妙技を見せた者たちに、相応の恩賞にて報いたいとの仰せです」
「おやおや……パルスの法律書には殺人罪が載っていなかっただろうかな?」
まあ、裁かれるより恩賞を貰えるほうがずっといい。俺たちはそいつらについていくことにした。
◇◇
ジャン・ボダン。こいつは異端者や異教徒の弾圧に狂奔する姿から狂い猿と呼ばれることが多かったが、俺は兎の様でもあると思う。危険察知能力が異常に高いのだ。
こいつはタハミーネ王妃の処遇を巡ってイノケンティス王と対立するや否やマルヤムから聖堂騎士団を呼び寄せ、その武力を背景に王権と対立した。それでも勝てないと見るや、即座にエクバターナを離れ、ザーブル城に籠もった。ザーブル城が落ちると命冥加にも脱出し、マルヤムへ逃げ延びた。本当にこいつには神の加護とやらがあるのかと疑いたくなる程だ。
そんなボダンが唯一無防備な姿を晒したのが、エクバターナ城壁前でシャプールを見せしめのため嬲り殺しにしようとしたときだ。常人では到底届かぬ間合いであったろうが、無論、ギーヴもラクシュも常人ではない。
弓に特化されたラクシュの肉体は、弓だけに限って言えば十六翼将の上位陣と同等の力を発揮する。早撃ちだけが得意な訳ではなく、遠矢も凄腕。弓勢こそダリューンやクバードには及ばぬだろうが、ギーヴとはほぼ同等。そのラクシュの弓に狙われて命を拾えた奴を俺は知らないからな。
早過ぎる退場で
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