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歌集「冬寂月」
五十三

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 虫ぞ鳴く

  雲に掠れし

   月影に

 想ひそかける

    小夜ぞ更けにし



 田畑や草むらから、虫の鳴く音が響いている…。

 空には雲に掠れた淡い月明かりが洩れ、辺りを幽かに照らしている…。

 そこはかとなく…故郷の風景と重なり、その風景に…あの人の姿を思い出す…。

 もう、あの頃の激しさはないが…胸の奥がチクリと痛んだ…。

 好きなものは仕方あるまい…そう思い、更け行く夜を眺めた…。



 今はまだ

  蛙も虫も

   鳴くなれど

 声音の消えし

      冬そ思へば



 今はこうして、蛙や多々の虫が鳴いているが…また冬になれば、そんな鳴き声も消えて静まり返ってしまうのだ…。

 この煩い程の鳴き声が、寂しさを和らげてくれているのだ…そう考えると、この茹だる様な夏さえ愛しく思えてくるものだな…。




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