戦い前に〜それぞれの理由〜
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シトレは引き出しを開けた。
二段になった底蓋をあければ、そこにはウィスキーの瓶がある。
手を伸ばし、ふたを開けて、一口。
「本当に嫌になる。将兵の死よりも、今後のことに頭を悩ませる立場というものは」
つまらなそうに呟けば、名残惜しそうに蓋をすると、ウィスキーを引き出しに戻した。
+ + +
「敵艦隊を発見しました。距離、十二時――数――五万!」
叫んだレーダー士官の言葉に、ラインハルトは鼻で笑った。
当たり前のことだ。
敵は三艦隊、数にして五万を超えると伝達があったばかりであり、それはラインハルト自身が部下に伝えた言葉であったからだ。
これが背後からであったり、あるいは一万であったりすれば、焦る気持ちもわかる。
当然のことを、必死に伝える様子に何と返答していいか迷う。
「慌てるな。反乱軍など、たかが有象無象。数が集まったところで、何ら問題はない」
金切り声が背後から聞こえる。
慌てるなといった当の本人の口調は、間違いなくひきつっており、まるで新兵のようだ。
いや、あるいは新兵であるのかもしれない。
有力な貴族が最前線に立つことなど、ほとんどない。
ところがラインハルトを陥れるために、無理やりラインハルトと同じ艦に乗せられた。
あるいは彼も被害者なのかもしれない。無能な被害者にはなんら、同情は感じないが。
だが、そんな声に周囲の慌ただしさは大きくなった。
命令を出す人間が慌てていれば、その命令に従う部下が不安になるのは当然だ。
なぜなら、命を預けているのだから。
「問題はない」
透き通るような声が、艦橋に響き渡った。
「敵が前からきて、攻撃してくる。私が最初に伝達した言葉に何か間違いはあったか」
問うた言葉に返答の言葉はない。
ただ周囲の視線が、艦長席に立つ金髪の若者を見ている。
いまだ十六の若き艦長は、しかし、全面のモニターに映る艦隊に対して臆することなく見ている。
「全て予定通りだ。問題はない――君らは任務を果たし、そして帰る。何か質問は」
言葉に出した声に、一呼吸を置いて『No』を伝える言葉となる。
「では、予定通り行動してください。我が艦隊は前面に立つことになります。作戦通り後退をしますが、それは敵も知っているでしょう。最初は敵も様子見のはず。なら」
ラインハルトの隣に立つ、同じく十六の赤毛の少年が同じように微笑。
「最初が肝心です。様子見の攻撃など何も問題はありません、前進して敵に痛撃を加え、下がる。それだけです」
どうでしょうというように、キルヒアイスがラインハルトに視線を送る。
ラインハルトはゆっくりと頷いた。
「作戦通りだ、キルヒアイス中尉。クルムバッハ少佐は何かご意見は?」
「な
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