戦い前に〜それぞれの理由〜
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スレイヤー辺りに聞かれれば、階級すらも無視して説教が始まるに違いない。
だが、多くの者は理解できないであろうが、それこそが必要なことだとも感じている。
自らの弱みを知り、そして、敵の強さを知る。言葉にすれば単純なことではあるが、それが考えられないものは多いし、考えたとしても発言できるものは少ない。
「難しい事なのだろうな」
嘆かわしいと嘆くことはできない。
おそらくは自分もこの立場に来るまでは、考えたとしても発言ができたかどうか。
ただ生きて、生き延びて、階級をあげて、年を取って初めて感じたことだった。
このことを理解できるのは、アレクサンドル・ビュコック中将くらいであろうか。
執務机の椅子に腰を下ろして、シトレはベレー帽を外して、机に置いた。
息を吐いて、考えるのは作戦のことではない。
作戦のことは既に決まっている。
いまから思いついて、やっぱり変えるなどと言えるのはよほどの馬鹿だろう。
状況が変われば違うが、今更悩んだところで仕方のないことであるし、シトレの仕事ではない。
考えるのは、この後の状況だ。
この作戦が成功すれば――いや、よほどのミスを犯さなければ、シトレは元帥に上がり、統合作戦本部長となるだろう。現在の統合作戦本部長は、既に退職が決まっている。と、言うよりも後任が死にすぎて、残らざるを得ない状況になっていた。これ以上残すことは本人にとっても、組織にとっても不可能だろう。と、なれば必然的に次の地位にいるシトレが繰り上がることになり、人事も一新されるだろう。
次の宇宙艦隊司令長官は、ロボス大将だろう。
ロボスか。
決して無能な人間ではない。
長い軍の人生で、シトレが歩むと同時にライバルという関係をもって、ともに歩いてきた。
しかし、年齢か、運か、あるいは政治の都合か。
一般に出世争いというものに、シトレが勝ち、彼の前を歩くことになった。
それをロボスがどう思っているかは思わないが、面白くはないらしい。
統合作戦本部次長として、現在は惑星ハイネセンに残ってはいるが、仕事よりも、むしろ熱心に派閥を作っているとの噂も漏れ聞こえていた。あるいはシトレが宇宙艦隊司令長官になったことで実力よりも、政治力が重要であると誤った考えを持ったのかもしれない。
そんな人物が、艦隊司令のトップとなるのは非常に危うい。だが、ここでシトレが統合作戦本部長になれば、彼がシトレを抜くことは不可能になるだろう。出世工作が無駄となれば、つまらぬ裏工作などよりも、同盟軍のことを考えるようになるだろう。そうすれば、彼の実績、実力からも間違いなく優れた宇宙艦隊司令長官になれる。
「だからこそ、ここは負けるわけにはいかないな。……自分が嫌になる」
苦い口調で呟けば、
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