350部分:第二十六話 聴かれたことその七
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第二十六話 聴かれたことその七
「本当に安くて美味しくて」
「しかも料理を作るのが早い」
椎名はこう言い加えた。
「そうした意味では猛虎堂に匹敵する」
「猛虎堂って?」
「とにかく安くて量が凄くあるお店」
そうだと。月美に対して話すのだった。
「かなりいい」
「そうしたお店もあるの」
「滅茶苦茶安くて飲み放題」
「お酒も出るの」
「つきぴーはお酒は?」
「ええと、それは」
実は飲んだことがない訳ではないがそれでもだ。いつも飲んでいるという訳ではないのだ。だが椎名はこう言うのであった。
「お酒は飲むべし」
「飲むべきなの?」
「そう。飲んで飲んで飲みまくる」
こんなことも話すのだった。
「それもまた人生」
「そういえばこれから行くお店も」
「バイキングコースあるから」
「そこで食べ放題飲み放題なのね」
「安いけれどワイン飲めるから」
「一緒に飲むのね」
「そう、飲もう」
実に率直に誘ってだった。本を買ったうえでそのパスタの店に入る。そこは木の内装でプラスチックも使っている店だった。そこに入ってだ。
二人で飲み放題食べ放題メニューを頼む。月美はその値段に少し驚いた。
「千五百円でアルコールオーケーなの」
「そう、このお店は平日はそう」
「凄いね、ここって」
「食べ物を安く仕入れるにはコツがある」
「どんなコツなの?」
「ルート」
それだというのだ。椎名の言葉ではだ。
「それを使う」
「仕入れる道順なのね」
「そう、八条グループは独自のルートを持ってるから安い」
椎名は八条グループのそうした事情も知っているのだ。彼女の勉強は学校に関することだけでなくだ。こうしたことにも及んでいるのだ。
それでだ。今パスタが来た。そのイカ墨だ。
黒くそこにイカとガーリックが見える。そしてオリーブをふんだんに使っている。二人の前にそのパスタが運ばれたのである。
それを二人で食べながらだった。月美は言った。
「これって」
「これって?」
「美味しいね」
にこりと笑って椎名に述べる彼女だった。
「本当にね」
「美味しいでしょ」
「うん。それに食べやすくて」
「パスタは気取って食べるものじゃないから」
「気軽になの?」
「そう、気軽に」
こう言うのである。
「そうして楽しく食べる」
「楽しくなのね」
「そういうこと。美味しく食べる」
言いながらその黒いパスタをどんどん食べていく。椎名は小柄だ。だが今はその小柄さを感じさせないまでに食べていっていた。
そうしてだ。頼んでいたワインも来た。赤ワインである。
デキャンタのそれを飲んでだ。彼女はさらに言った。
「それがイタリア」
「イタリアなの」
「イタリアは軽やかに美味しく食べる」
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