第二章
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「だからですか」
「この人達にわしの遺産をあげるか」
「私は別に遺産は」
これといってとだ、司祭はマーナーに答えた。
「いりませんが」
「おや、無欲だな」
「私は神に仕えていますので」
「結構よく深い司祭さんも多いんだがな」
「少なくとも私は違います」
このことは断るのだった。
「ですから」
「いいっていうのかい」
「はい」
「そうした人だからだよ」
司祭のその人柄を見込んでというのだ。
「あんたにもな」
「遺産をですか」
「渡すよ、あらかた息子や娘に渡して少ししかないが」
その遺産はというのだ。
「あんた達三人に渡すよ」
「そうですか」
「ああ、死んだその時にな。幸いわしは字が書ける」
当時の農民にしては珍しくだ。
「それで遺産のことも書けるから」
「遺書をですか」
「書き残しておくよ」
こう言ってだ、そのうえでだった。
マーナーは司祭と話してから暫くしてこの世を去った、だがその死に顔は妙ににこにことしたものだった。
その顔を見てだ、彼と付き合いが深く何かとツケを溜めさせられていた薬屋は言ったのだった。
「爺さんがこうした顔になる時はいつもだったよ」
「いつも?」
「ああ、いつも悪戯をするんだよ」
そうするというのだ。
「これがな」
「そうですか」
「ああ、まさかまた何かするんじゃないだろうな」
「まさか、もうお亡くなりになったんですよ」
司祭は薬屋にそれはないと返した。
「幾ら何でも」
「どうでしょうか」
「流石にそれは」
こう言うのだった、だが判事も彼のその話を聞いてだった。それでこう言ったのだった。
「何かするのではないか」
「判事さんもそう思いますよね」
「マーナー爺さんだからな」
こう言うのだった。
「だからな」
「それで、ですね」
「まさかと思うが」
「死んでも置き土産で」
「何か置いているのではないか」
薬屋に応えて話した。
「本当に」
「マーナー爺さんですから」
「ひょっとしてな」
「そんなことはないですよ、まあとにかく今は」
司祭は遺産を残すという彼等にさらに話した。
「マーナーさんを埋葬しましょう」
「まあ司祭さんがそう言うなら」
「今は」
薬屋と判事は司祭の穏健な言葉に頷いた、確かにもう死んだし死んだのなら埋葬の時位は穏やかにと思ってだ。
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