第十三話 心情
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「次は『龍驤』さん」
「はいよ〜」
今度は日向の横から演習前とは思えない間の抜けた声が上がった。そこには陰陽師のような紅と黒の和洋折衷衣装を身にまとい、頭にはサンバイザーを着けた小柄な少女が手をヒラヒラとさせていた。態度からして友好的なのかそうでないのか判断がつかないが、とりあえず友好的と捉えておくことにする。
「次は……『隼鷹』さん」
「ほーい」
不敵な笑みを向けてくる龍驤の後ろにいた薄紫色の奇抜な髪形に龍驤と同じ陰陽師のような紅と白の和洋折衷衣装を身にまとった艦娘ーーーー隼鷹が返事する。龍驤と同じような態度なので、こちらも友好的と捉えておく。
凰香が資料に目を落として次の艦娘の名を呼ぼうとした時ーーーー
「司令官」
不意に横から声を掛けられる。凰香が振り向くと黒髪セミショートに何処にでもありそうなセーラー服を身にまとった艦娘が立っていた。顔は俯いているため見えないが、腰のあたりで固く握りしめられた拳がブルブルと震えている。
「どうかしましたか?えっとーーーー」
「特T型駆逐艦……吹雪型、一番艦の『吹雪』です」
凰香が名前を言おうとした時、目の前の艦娘ーーーー吹雪が絞り出すような声で自らの名前を告げる。彼女はなおも俯き続け、握りしめる拳は血がめぐっていないのか白くなっている。
「昨晩、司令官が部屋のドアを殴り破って出て行くところをお見掛けしました……その後出てきた半裸の加賀さんも」
吹雪の言葉にテント内の空気が一瞬で凍り付く。周りの艦娘達の顔から表情が消えさり、ゆっくりとこちらに視線が集まる。視線の中の一つであった長門と目が合った瞬間、全身に鳥肌が立つ。
金剛や潮が向けてきたものとは違う、純粋な『殺意』の目だ。
しかしその程度で凰香が怯むことはない。
「何度も言いますが、私は何もしていません」
「分かっています、加賀さんに迫られたんですよね?それが金剛さんの命令だと勘違いされたのも知っています。全部分かってます。怒りに任せて金剛さんを問い詰めたことも……分かっています…分かっています……」
凰香に、と言うより自分に言い聞かせているようにつぶやき続ける吹雪は、あれだけ固く握りしめていた拳を解いた。一気に血がめぐってきた手は赤く紅潮し、所々血管が浮き出ている。
「ただ、一つだけお願いがあります」
消え入りそうな声でそう言った吹雪。
不意に、その身体が上下に揺れた。彼女の身体は先ほどよりも半分程度の高さになり、やがてその頭が重力に従う様にゆっくりと前に倒れる。下がり切った頭の前に、未だに赤い両手が添えられる。
早い話、土下座してきたのだ。
「吹雪!!何をやってーーー
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