第一章
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かんざし売りの女
紫蓮は凄腕のくノ一だ、里では彼女に勝る忍の者は男であっても誰一人いなかった。
だが今は泰平の世だ、それで彼女は忍の仕事がない時は相棒の幼い時から共に暮らしているくノ一仲間と二人で大坂の街でかんざし売りをして暮らしているが。
ついついだ、紫蓮は日本橋の自分の店にいながら相棒にこう漏らした。
「あたしは里ではね」
「敵なしのくノ一だったね」
「そうだよ、それこそ苦無を使わせたら」
それこそというのだ。
「百発百中、男だって獣だって倒す」
「無敵のくノ一だったね」
「それがね、いざ里を出たら」
忍として活躍するその時になったがというのだ。
「忍の仕事がなくてね」
「かんざしばかり売ってるね」
「そうだよ、これはどういうことだい」
「戦国の世が終わったからね」
相棒は紫蓮に苦笑いで応えた。
「だからね」
「それでだよね」
「そうだよ、戦国が終わってもう随分経って」
「あたし達があれこれ動くことなんてね」
「なくなったよ、時たま飛脚とか虚無僧に化けてでかいお大名の状況観に行ったりもするみたいだけれどね」
「その飛脚もないねえ」
ぼやいて言う紫蓮だった。
「あたし達には」
「女で飛脚はね」
「旅芸人に化けてもね」
「そっちもないね」
「天下は今どれだけ泰平なんだよ」
「もう波風一つない位だよ」
そこまで泰平だとだ、相棒は紫蓮に返した。
「それこそ」
「いい時代だね」
「そうだね、いい時代なのはいい時代だよ」
「けれどね」
そのいい時代だからとだ、紫蓮は眠そうな顔で左手で頬杖をつきつつ店の中で言うのだった。目の前の往来は実に賑やかだ。
「忍にとってはね」
「暇だね」
「今のあたし達の仕事は完全にじゃないかい」
「かんざし売りだね」
「職人さんから買ってね、しかしね」
ここでだ、紫蓮は店の品物であるかんざし達を見てこうも言った。
「どのかんざしも立派なもんだね」
「いい細工のばかりだね」
「大坂のかんざし職人は腕がいいねえ」
「特にあたし達が仕入れている職人さん達はね」
「ああ、秀さんなんてね」
紫蓮はその職人の一人の名前を出した。
「次から次にね」
「いいかんざし作ってくれてね」
「それが売れるから」
「本当にいいね、さてお客さんが来たらね」
「売ろうね、かんざし」
「今日もね」
今は完全にかんざし売りとしてだ、紫蓮は相棒に応えた。そうして実際にこの日もかんざしを売った。
紫蓮も相棒も商い自体は愛想がよくその外見もあって人気で店の売り上げはよく暮らしも楽だった。それでだ。
二人は今は店の休日なので大坂の街に出て美味いものを食べ歩いていた、
その中でうどんを食いつつだ、紫蓮は相棒にこん
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