暁 〜小説投稿サイト〜
ヌードデッサン実技がある美大の入試
ヌードが描けないなら、美大はあきらめなさい。
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[1] 最後

ハラリとガウンを落とすと、一瞬で私の一糸まとわぬ裸身が現れた。

少年は目を見張った──そして、下を向いてしまった。

ほんとにコンプレックスだわ。
▼▼
少年は高校3年。美大志望だという。
ところが、志望校の入学試験に「ヌードデッサン実技」があると知って驚いたという。

私は驚かなかった。

ヌードは美術表現の基本中の基本だから。美大の入学試験ともなれば、それくらいアリでしょ──といったコメントとなる。

でも、芸術とはいっても、初対面の女性がいきなり全裸になるわけで、
それを思うと、免疫のない男子高校生は、初めての生身の裸のショックで試験に失敗するのではという不安がよぎるのだった。

そこで、まじめな高校生は親に相談し、親は一計を案じモデル事務所を訪れた。
試験までに、裸に慣れさせるしかない。

そして、今日、模擬試験となったわけだ。

ヌードになる前に、少年の真剣さを知りたくて、
両親もいるリビングで、着ていったワンピースのままでモデルになった。

ものの5分で仕上がったデッサン画──さすがに手慣れたもので、なるほど、これなら美大志望も頷ける。私も「一肌脱ごう」という気になれた。

いよいよ、少年の部屋に移り、二人だけで模擬試験──

入試要項は知らないが、ゼミ室でやっているここと大差ないだろう。

イーゼルを立てて待っている「ゼミ生」を「受験生」と置き換えるだけでいいはず。

私はいつものようにガウンだけ着て、教室に入るように少年の部屋のドアを開け、いつものようにガウンを脱いだ。

私にとっては、いつものこと。

少年にとっては、会ったばかりの女性の全裸を見ているという、信じられないこと。

「どんなポーズにしますか?」

あえて事務的に訊いてみた。

私は、裸になるのが仕事だから、裸を見られても恥ずかしくないから、
──なにより、芸術なんだから。


下を向いた少年は何も答えない。

それならと、私から動いた。

少年に私の右の体側を見せるように、体の向きを変えた。
右足を前に、左足を後ろにずらし、お尻を隠すような位置で両手を組んだ。
乳房が美しく見えるように自分なりに計算して、上体を前に倒した。

伸びた脚、控え目なお尻、チャームポイントとしての乳房。
おとなしいが、女性の身体の線を美しく見せるポーズだと思う。
なによりも、視線が合わないから、少年の羞恥も薄らぐだろう。

それでも、うつむく少年のコンテ(鉛筆のようなもの)は動かない。
目の前のものが、「裸の女性」から「表現すべき美」へと認識が変わらないのだ。

そのあと、座りポーズをいくつか見せたが無駄だった。一枚も描けないまま、契約の2時間は過ぎ去った。


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