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才能売り〜Is it really RIGHT choise?〜
Case1 夢喪失ワーカホリック
Case1 前編
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みてくれないかい?」
 灯さんの指示に従い、おれはいつもの練習通りにボールを軽く蹴りあげて頭の上で……

 リフティング、できなかった。

 それ以前。おれの蹴りあげた足は見事に空を切って、バランスを崩したおれはたたらを踏んで大きくよろけた。おれは愕然とした。
 リフティングだぜ? 練習みたいな動きだぜ? できて当然の動きなんだぜ? これでもおれはストライカーだったんだ、リフティングはそれなりにうまかった。
 それなのに、できない。できないどころか大いに空振ってよろけてしまった。
 このストライカーの山本雪也が。
 おれはリフティング以外の動作もやってみようと動いてみた。しかし、慣れた動きを頭の中で思い返すことはできても、身体が動かなかった。おれは固まったまま動けなかった。
 おれはしっかりと理解する。
「……これが、代償か」
「代償というよりは対価だね」
 おれの言葉に灯さんは律義に返す。
「わかったかい? 君は勉学の才を手に入れてサッカーの才を失った。得た才をどのように使うのかは君次第。でも、いくら努力したって失われた才は戻らない。それが才能屋の取引なのさ」
「……わかり、ました」
 おれはしばらく呆けたような顔をしていた。得たものと失ったもの。合格の可能性が見えてきた大学受験、永遠に戻らないストライカー。おれの未来とおれの過去。未来の栄光と過去の栄光。
 得たものの大きさも、失ったものの大きさも同じだと灯さんは言う。それでもどこかで、ストライカーでなくなった自分を惜しいと思っている自分がいた。
「ありがとう、ございました」
 複雑な思い。もやもやした何かを抱えながらもおれは灯さんに礼をして、逃げるように店を去った。
 どうしてだろう、おれの未来は確約されたはずなのに、胸にぽっかりと大きな穴が空いたような気がして、それがおれの心を鬱にさせた。

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