巻ノ百四十六 薩摩入りその十二
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「何一つとして」
「何、苦しいことなぞありませぬ」
猿飛は心から笑っていた、それも明るく。
「何しろ我等が全員いるのですから」
「大助様もおられますし」
霧隠は彼のことを話に出した。
「充分以上ですぞ」
「しかも長曾我部殿、明石殿もおられる」
筧が名を出したのは彼等だった。
「後藤殿は残念でも後藤殿に勝ちをお報せ出来まするぞ」
「ははは、足りぬ足りぬと言う状況ではないですな」
最後に言ったのは根津だった。
「これだけの顔触れがいますから」
「そうじゃな、しかもよく星を見れば」
幸村は十勇士の言葉に勇気付けられ笑顔になった、そうしてまた星を見てこんなことを言ったのだった。
「後藤殿の星もあるが」
「どうなっておりますか」
「それで後藤殿の星は」
「一体」
「明るく輝いておられる」
そうなっているというのだ。
「つまりだ」
「必ずですな」
「後藤殿は傷を癒されていますな」
「そしてそのうえで」
「我等と共に」
「戦ってくれる、星が教えてくれておる」
幸村は後藤の星を見つつ確かな声で述べた。
「ではな」
「はい、それでは」
「大助様が戻られるのを待ちましょう」
「大助様が吉報を持って来られることを」
「そのことを」
「そうしようぞ、拙者も待ち遠しくなった」
思わず笑みを浮かべてだ、幸村は述べた。
「大助がここに帰って来るのがな」
「そして帰って来れば」
「その時はですな」
「すぐに駿府に向かうのですな」
「後藤殿と合流したうえで」
「そうするとしよう」
幸村は星を見て笑顔になっていた、そしてだった。
今は大助が戻って来るのを待つことにした、戦が出来る残された時は少ないと感じながらもそれでもだった。彼は星に希望も見たのだった。
巻ノ百四十六 完
2018・3・8
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