319部分:第二十四話 過ちその三
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第二十四話 過ちその三
「二人で踊って」
「陽太郎君と」
「そう、踊って」
そうしてくれというのである。
「だからね」
「うん、じゃあ私絶対にね」
「倉庫は終わらせて」
こう月美に話す。
「早くね。私も本当に行くから」
「有り難う」
「恋の前に障害はつきもの」
椎名はぽつりとこんなことも言った。
「ただ」
「ただ?」
「それでもその障害は乗り越えるべきもの」
「そしてそれを乗り越えて?」
「そう」
こう一呼吸置いてまた話すのだった。
「それからまた恋愛を深めていくものだから」
「だったら余計になのね」
「そう、頑張る」
そうしろというのであった。
「そういうことだから」
「恋愛って難しいものなのね」
「私も最近それがわかった」
「愛ちゃんもなの?」
「自分もやってみて」
パンをかじりながら頬を赤らめさせる椎名だった。
「そうしてそれでわかった」
「そうだったの」
「そう、そして」
「そして?」
「思った以上にいいもの」
パンをかじる顔が微笑んでもきていた。
「温かくて甘くて。切なくて」
普段の彼女からは思いも寄らぬ言葉だった。
「それでいて嬉しくて。不思議な感覚よね」
「ええ、本当に」
月美もその言葉に頷く。二人は朝も恋愛を確かめ合っていた。そうしてそのうえでだった。放課後のキャンプファイアーを見ているのだった。
文化祭はいよいよクライマックスだった。皆この日は特にせわしない感じだった。
三組もそれは同じでだ。厨房の中の狭山があちこち動き回っていた。
包丁はもう一度に何本も持っている感じだ。手も蛸みたいに八本あるように見える。
そんな忙しい中でだ。彼は言うのだった。
「ったく今日は特によ」
「あんたは今から」
ここで津島が彼に対して言う。
「忙しくて仕方がないって言う」
「忙しくて仕方がないぜって」
言ってから気付いた狭山だった。
それでメイド姿の津島に顔を向けてだ。それで言い返したのだった。
「あのな、何言うんだよ」
「本当に言ったじゃない」
「御前は何処かのスタンド使いの二代目かよ」
「あの時はまだ波紋だったじゃない」
「まあそうだけれどな」
こう指摘されてさらに弱る彼だった。
「それでもな」
「それでも?」
「何変なこと言ってるんだよ」
「あんたが言うからよ」
「俺が?」
「そう、あんた今忙しくて仕方ないって思ってるでしょ」
「確かにな」
言いながらも包丁を使う手は止まらない。本当に手が八本に見える。
「実際にそうだしな」
「忙しい忙しいって言ってたら」
「駄目か?」
「そのことに頭が一杯になって他が見えなくなるじゃない」
指摘するのはこのことだった。
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