第一章
[2]次話
遊牧民のもてなし
旅人は今草原にいた、草原を一人馬に乗って進んでいると。
草原の彼方から羊の群れが来た、旅人はその羊達を見てこの辺りの遊牧民達が飼っている羊達だとすぐにわかった。
その羊達の中から一人の左右に水牛の様な大きな角を着けた青年が来た、着ている服はこの辺りの遊牧民のものだ。
その若者が左肩に鷹を止まらせたうえで旅人のところに来て言ってきた。
「何処に行く」
「東の絹の国にだよ」
旅人は遊牧民の青年にすぐに答えた。
「そこに行くつもりなんだ」
「そうか、あの国にか」
「うん、そうしてね」
そしてと言うのだった。
「絹の国の各地を回るつもりさ」
「そうするんだな」
「そう、ただね」
「ただ?」
「ここは随分広いね」
ここでこうも言った旅人だった。
「この草原は」
「そうだな」
青年は旅人にやや不愛想な声で応えた。
「それは確かだな」
「もう何日も進んでいるけれど」
それでもというのだ。
「まだ絹の国には着かないね」
「あと少しだ、ただ」
「ただ?」
「絹の国に着いたらすぐにわかる」
旅人が目指すその国にというのだ。
「そこには長い長い壁があるからな」
「ああ、長城だね」
長い壁と聞いてだ、旅人はすぐにわかった。
「それがあるんだね」
「そうだ。それにあたるからだ」
だからだというのだ。
「すぐにわかる」
「そう聞いているけれどその通りだね」
「そうだ、長城はあと二日程進めばだ」
そうすればというのだ。
「着く、しかし」
「しかし?」
「もうすぐ夕暮れだ、あんたこれから休むか」
「ああ、こいつと一緒にな」
旅人は今自分が乗っている馬のその首をいとし気に撫でつつ答えた。
「いつもそうしているさ」
「外でか」
「ははは、ここは雨も殆ど降らないから外で寝るのもいいさ」
旅人は青年に笑って返した。
「だからな」
「草原にいる間はずっとゲルの外で寝ているんだな」
「それがどうかしたかい?」
「今日あんた俺のゲルに泊まれ」
青年は旅人に無表情に申し出た。
「そうしろ」
「あんたのゲルにかい」
「そうだ、そしてだ」
そのうえでというのだ。
「今日はあんたも馬もゆっくりと休め」
「そうしていいのかい」
「構わない、俺がいいと言っている」
これが青年の返事だった。
「だからな」
「それでかい」
「今日は俺のゲルで休め」
「申し出てくれるならね」
内心何かあるのではと思いつつだ、旅人は青年に応えた。旅をしていると世の中悪人が多いことも知ることになるからだ。
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