第55話
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常をきたしたのだろう。
絶体絶命。そんに言葉が浮かんだ自分を、楽進は嘲笑した。
まだだ、自分には出来ることがある。
「――そうか」
楽進が全身の気を練り上げているのを確認して、猪々子が呟く。
討ちたくないだけで、討てないわけではない。
最早、是非に及ばず。これ以上の言葉は互いの、武人としての魂に傷をつけるだけだ。
楽進を中心に、波紋のように静寂が広がった。
決死。
相方が倒れ、手甲が砕け、身体が満足に動かせず、相対するは格上の強者。
猪々子が強者と認めた武人が、人生の終焉に牙を立てようとしている。
彼女は敬意を言葉にせず、獅子博兎であることでソレを伝える。
大刀一閃。
十数人の重装歩兵すら撫で斬りにする、猪々子がもつ最強の斬撃。
ソレが来ると、楽進は悟った。
右手を引き、腰を落とす。奇しくもソレは、猪々子に奇襲を仕掛けた時と同じ構えになった。
「いっっくぜぇぇぇーーッッ」
瞬時に間合いを詰める大刀。楽進に焦りはない。
後は、尽くすだけだ。
「ウオオオオォォーーーッッ」
全身に満ちていた気が、突き出した右手に収束していく。
目がくらむ程の眩い光と共に、全力の気弾が放たれた。
先程放った気弾の比ではない。猪々子を丸ごと包み込むような大きさ。
破壊力も言わずもがな、巨石すら砕くだろう。
猪々子はそれを正面から――
「オラァッ!」
――斬った!
「!?」
目を見開いた楽進がその場にへたり込む。絶望したのではない、出し尽くして脱力したのだ。
頭上を大刀が通り過ぎる。偶然だが、避ける形になった。
だが、それで止まる大刀ではない。猪々子は振りぬいた得物を切り返し、再び楽進を捉えた。
刃を引くことは簡単だ。楽進達の命を惜しむなら、終いにして捕縛すればいい。
だが、ぞれでは楽進の武人としての魂が死んでしまう。
降伏を受け入れず全力で牙を突き立て、相手の裁量で生き延びる。
冗談ではない。生き恥だ。
猪々子は武人としての楽進を救うため、個に向けて斬撃を繰り出した。
そんな不器用な気遣いを感じてか、楽進が苦笑する。
悔いはない。全力を出し尽くして敗れたのだ。武人としての本懐といった所だろう。
そう“武人”としては。
目を瞑る楽進の脳裏に、魏の面々が浮かぶ。
村を救われ、軍人として取りててもらい、変わり者で知られる幼馴染達を重宝してくれた。
全身の傷にも嫌悪感を見せず。武人として高みを目指す事まで、手助けしてもらった。
だからこそ個人として無念だ。恩を、返しきれなかった。
「……?」
妙だ。目を瞑ってから暫く経つが、来るはず
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