第55話
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「……?」
蛮勇、だろうか。尚も戦意を削ごうとするとは、念の入ったことだ。
「確かに、私では敵いそうにありません。ですが――」
「二人ならどうなの!」
――殺気。猪々子は己が防衛本能に従い、右に飛び退く。
次の瞬間、彼女が立っていた地点を二つの刃が通り過ぎた。
三羽鳥の一人、于禁の双剣だ。躱されると思わなかったのか、勢い余って楽進の傍に倒れた。
「ば、バカ! 声を上げながら奇襲を仕掛けるな!!」
「あたた。つい……なの」
「にしても折角の好機をお前は――」
「えーでも。沙和が声を出す前にあの人反応してたの」
「……だから?」
「どのみち避けられてたの!」
どや顔ウィンク&横ピース。
「――ッ 胸を張って言うなァーッ」
「いったーーッ。同士討ちは軍法会議ものなの!」
戦場のど真ん中でいい度胸してんなぁ。などと、猪々子は自分を棚に上げて思う。
于禁が合流したが、余裕が崩れない。負けるイメージが思い浮かばないのだ。
「あのよぉ、漫才し続けるならアタイ行くけど」
「ま、漫才なんてしていません!」
「じゃあ、戦るんだな?」
ゾクリと、楽進と于禁の肩が跳ねる。
濃密な闘気。先程までの弛緩した空気が、嘘のようだ。
楽進が息を吸い込む、右手を引き、密かに力を込めていく。
于禁は震えを誤魔化すように、得物を強く握った。武者震いではない、恐怖からくる震え。
それでも彼女に、逃げという選択肢はなかった。心ならずも倒れた親友と、強大な相手に向かっていく親友の為に。背を向ける訳にはいかないのだ。
「合わせろ、沙和!」
「合点承知なの!」
楽進の突き出された右手から、淡い光を放つ何かが飛んでくる。気弾だ。
弛まぬ鍛錬の果てに会得した奥義。先程、猪々子を落馬させたものもそれだろう。
猪々子は大刀を盾にして気弾を受けた。思ったより衝撃が少ない。
これは、囮だ!
「もらった」
「なの!」
「――ッ」
猪々子は、二人の狙いに気が付くと同時に、術中に嵌まっていた。
気弾で意識を逸らしたところで、接近して猛攻を仕掛ける。超近距離戦。
斬山刀は刃渡りも大きい長刀だ。切れ味を最大限発揮させるには、相応の間合いを必要とする。
大きく振る必要があるのだ。
それに対して、二人の得物は近距離戦に向いている。
楽進の得物を己の体、四肢を活かした徒手空拳。
于禁の双剣も小回りが利く。なにより、巧い。
背後に回り込み、楽進の猛攻から逃れられないように牽制してくる。
避ける、避ける、受け、避ける。
前の拳を体術、背後の刃を大刀で弾き、いずれ来る好機
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