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恋姫†袁紹♂伝
第55話
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るだろうか? 否、別の手段を講じるだろう。

 猪々子は斬山刀を、肩に掛けるようにして構えなおす。
 目の前のソレ()は文醜隊を、それを率いる将の力量を馬鹿にしている!

「アタイを止めるには、()の桁が違うだろうがァァーーッッ」

 一閃

「――ッ、出鱈目な!?」

 楽進が叫んだ。無理もない。猪々子より放たれた斬撃は重兵の装甲を、構えた鋼鉄の盾ごと切り裂き、一撃で十数人を吹き飛ばしたのだ。
 

「続け、おめぇら!」

『オオオオォォーーッッ』

 猪々子によって壁に空いた穴に、彼女の兵たちが雪崩れ込んでいく。
 重兵は正面の防御に優れる一方で、側面と背後に弱い。
 魏兵が穴を埋めようと殺到するが。猪々子が次々に穴を構築、広げていく。

「うっし、こんなもんか。次は――」

 攻め場を作り、次の行動を決めようとしたその時である。
 猪々子に向かって“何か”が飛んできた。正体はわからないが、本能から危機感を感じ取り回避する。しかし、馬上で無理な体勢をとったため落馬。受け身に失敗し「ぐえっ」と、乙女らしからぬ声を上げた。

 先程までの雄姿が台無しである。彼女をよく知る者たちからすれば、愛嬌の一つだが……。
 相対する楽進は少し呆けてしまった。

「いってぇ、よくも……あー!? ネェチャン確か――そう、楽ちゃん!」

 ずるり、と楽進の構えが崩れる。
 
「……敵同士ではありますが、覚えていて頂けた事は光栄です」

「そりゃ忘れようがねぇよ。ほらその傷――」

 楽進の顔が歪む。彼女の全身にある傷は、武人の誉であると同時に乙女として汚点でもある。
 年頃である楽進にとっては後者に近い。そんな乙女にとって気にしている所を……。
 彼女(猪々子)の辞書に、気遣いという文字はないのだろうか? 

「――スッゲェカッコいいじゃん!」

 ずるり、ドサッ。今度は耐えきれずに倒れてしまった。
 
 傷の話題に触れない者。鍛錬の証として誉める者。
 様々な言葉を投げかけられてきたが、目を光らせて羨む反応は初めてだ。
 それも戦の真っ最中、両軍の矢が頭上を行き来する場での言葉である。

「!」

 楽進は慌てて飛び起き、構え直す。
 相手の術中に嵌まってはいけない。これはきっと、こちらの戦意を削ぐための策略だ!

「お?」

 楽進の闘志を感じ取り、猪々子も体勢を整えた。
 大刀を肩に担ぎ、口元には不敵な笑みを浮かべている。
 あるのは強者としての余裕。いや、慢心か。
 だがそれだけの実力差はあるだろう。三羽鳥の中で一番、武を磨いてきた楽進だからこそ、嫌というほど理解できる。

「よせよせ、そういうのって確か“漫遊”っていうんだぜ」


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