ターン92 鉄砲水と遊戯の王
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「本日は、我々卒業生のために盛大な卒業式を行っていただいたこと、心よりお礼申し上げます。時が経つのは早いもので……」
凛とした明日香の声が、講堂に響き渡る。さっきまでおいおいと男泣きに泣いていたクロノス先生と剣山が頭を冷やすためにつまみ出された今、全校生徒が静かにその声に耳を澄ませていた。
……いや、違うか。ただ1人、ただ1人だけ、この場にいない人がいる。僕が誰よりも助けたかった、誰よりも勝ちたかった、彼女はもういない。今年の卒業生は、3年前の入学生より1人少ない。たとえ僕だけでもそのことは決して忘れない、忘れられるわけがない。
「……このデュエルアカデミアで、多くの友人達、先生達と出会い、デュエルを通して、数多くのことを学んできました。時には戦い、励まし合い……」
明日香の卒業生代表答辞はまだ続く。実際こういった役どころに関しては、彼女はまさに適任だろう。それにしても、あの入学式がもう3年前か。
「たとえこれから別々の道を歩いていこうと、遠い場所で暮らしていこうと、私達は仲間です」
答辞もいよいよ佳境に入る。周りに耳を傾ければかすかに鼻をすする音や、涙をぬぐっているのであろう布音が聞こえてきた。まったく皆単純というか、涙もろいというか。
『随分スレたことを言うようになったものだな。無理に幼くなる必要はないが、もう少し年相応な態度になってもいいんだぞ?』
チャクチャルさんの入れてくる茶々にも、いつものようなそれを面白がっている響きが無い。あの日、あの現との死闘以来、僕の何かが決定的に変わってしまったことに、誰よりも敏感に気付いているのだろう。卒業、か。もちろん、それに対しての感慨が無いわけじゃない。だけど、少なくともまだしばらくの間は、僕の涙は枯れたままだろう。
「ありがとう、みんな……ありがとう……デュエルアカデミア。そして……さようなら」
明日香の演説が終わる。結局、涙は一滴もこぼれなかった。周りと共に拍手しながら、そんな自分を苦々しくも思う。現を失ってから数日、あの時流し続けた涙が止まったその瞬間から、ずっとこうだ。
まるで自分の心の一部が、死んでしまったかのように。感情の動きが明らかに鈍くなり、少し気を抜くと無意識のうちにため息ばかりがこぼれ出る。先日何気なく鏡を覗いてみたら、随分ひどい顔をしていた。表情にも覇気がないのはもちろん、特に目だ。あれは冷めた目、というよりも台所で見慣れた死んだ魚の目に近い。その変化を自覚しつつもだからどうしようという気が湧いてこないあたり、かなり重症なんだろう。
「それでは、これで卒業式を終わります。卒業生の皆さんは今夜行われる卒業パーティーまでは完全に自由時間となりますので、ぜひ悔いを残さないよう皆さんが巣立つこのデュエルアカデミアに、そして
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