Ep10 英雄がいなくても……
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。フェロンはその場へ駆け出し、稲妻のような速さで抜刀する。
大丈夫、戦える。傷はそれなりに癒えた。
「きゃぁぁぁああああああっ!」
悲鳴を上げる女の子を背にかばい、その片手剣は魔物を一閃した。
「……何とかなったみたいだ」
魔物を一体、斬り捨てると、驚く女の子はそのままに、フェロンは同い年くらいの少年に襲いかかっていた魔物へと走る。
大丈夫だ、戦える。この程度でへたるような体力じゃない。
「わおっ! お前……!」
「そこをどけッ!」
紫電一閃。斬りかかった刃は確実に、怪物の喉元をしかととらえた。
英雄がいないなら。英雄がいないなら。力を尽くして代わりとなろう。
フェロンは剣の露を払う。
「……二体目」
三体目の魔物は、なんとルードの宿の前にいた。
「……馴染みの宿だ、やらせるか」
フェロンはそう吐き捨てながらも、自分の心を叱咤した。
大丈夫、戦える。まだまだ剣は鈍っちゃいない。
「フェロンさんー!」
泣きつくルードに優しく笑いかけ、彼は英雄の代わりに剣を振るった。それはあっさり魔物を斬った。くずおれた魔物は人に戻る。魔物は美しい、美しい、娘だった。それを見、泣き伏す家族たち。フェロンは知っている。これが摂理だ。
「…………」
フェロンは振り向かずに、宿に戻った。
◆
宿の部屋で、フェロンは膝をつく。剣を支えにして何とか倒れずにしている。
――彼は、限界だった。
ちっとも余裕じゃなかった。大きな傷がないのが不思議なくらいだ。
「……三体も相手にすればぁね」
荒い息をつき、呼吸を鎮める。
「……リア」
フェロンはそっと呼びかけた。
「君は、いつまで目覚めないわけ?」
あんな大きなことがあったのに、英雄はいまだ眠ったままで。
「……目覚めろよ」
呼びかけても、何一つ反応はないままだ。
英雄はいない、英雄はいない。英雄の代役ももう戦えない。
「誰がみんなを守るのさ……」
リクシアは、目覚めない。
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