巻ノ百四十六 薩摩入りその一
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巻ノ百四十六 薩摩入り
秀頼が熊本城に入りそこから薩摩に向かっていることはもう家康は知っていた、それで限られた幕臣たちはあえて彼に問うた。
「ではどうされますか」
「右大臣殿について」
「如何為されますか」
「答えはわかっていよう」
家康は彼等に笑って返した。
「大坂は手に入れて豊臣家は大坂城と共にじゃ」
「滅んだ」
「だからですか」
「これでよいですか」
「最早」
「そうじゃ、もう幕府は安泰じゃ」
そうなったからだというのだ。
「右大臣殿が生きておるといっても最早じゃ」
「噂ですな」
「それに過ぎぬものですな」
「所詮は」
「そうしたものになりましたな」
「だからじゃ、もうよい」
秀頼のことはというのだ。
「もうこのままじゃ」
「薩摩に入ってもらい」
「そしてあちらで生きてもらう」
「そうしてもらいますか」
「そもそももっと穏やかに済ますつもりであった」
家康としてはというのだ。
「大坂から出てもらうだけでよかった」
「そして国持大名として遇する」
「そのつもりでしたな」
「幕府としては」
「大御所様としては」
「今も言うがわしは大坂が欲しかったのじゃ」
あの地がというのだ。
「それだけであった、だからな」
「大坂が手に入った」
「だからですな」
「これでよい」
「そうなのですな」
「うむ」
実際にと言うのだった。
「それでよかったし今もな」
「これでよい」
「そうなのですな」
「もう右大臣殿はよい」
秀頼、彼はというのだ。
「その供養は千にさせてじゃ」
「そうしてですな」
「もう死んだことにして」
「幕府は何もせぬ」
「何も言わないのですな」
「そうじゃ」
そうするというのだ。
「よいな」
「わかり申した、それでは」
「我等もです」
「右大臣殿はあの戦で腹を切られた」
「その様に」
「よいな」
こう言ってだ、家康は秀頼のことはよしとした。だがその後でだった。
服部を呼んでだ、彼にはこう言った。
「右大臣殿のことはよいが」
「それでもですな」
「お主もそう思っておるな」
「はい」
服部は家康に強い声で答えた。
「必ずです」
「近いうちにな」
「この駿府に来ます」
「そうじゃな、戦は確かに終わったが」
「あの御仁の戦はまだです」
こう家康に言うのだった。
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