308部分:第二十三話 嫉妬と憤怒その二
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第二十三話 嫉妬と憤怒その二
「とても」
「そうだったんだ」
「はい、本当に」
また言う彼女だった。
「だから今だって」
「何か月美らしいな」
「私らしいですか」
「その恥ずかしいっていうのがさ」
それがだというのである。
「月美らしくてさ。いいんじゃないかな」
「いいですか?」
「そう思うんだけれどな」
こう彼女に話す。
「そうじゃないかな」
「だったらいいんですけれど」
「まあとにかくさ」
「はい」
「今はこのデート楽しもうか」
これが陽太郎の提案だった。
「周りの目は気になるけれどできるだけ気にしないで」
「できるだけ、ですか」
「ああ。それでさ」
「はい、それで」
「できるだけ一緒にいような、この文化祭」
こうした提案もするのだった。
「それでいいよな」
「わかりました」
月美は今の言葉に顔をあげた。そうしてであった。
陽太郎に顔を向けて笑う。今は晴れやかになっている。
その顔でだ。彼に言うのだった。
「陽太郎君と一緒に」
「ああ、それでさ」
「はい、じゃあ」
こんな話をしながらデートを楽しむ二人だった。
そして彼等もだ。楽しむことは楽しんでいた。
椎名は赤瀬と一緒に食堂でうどんを食べていた。きし麺である。
それをすすりつつだ。赤瀬に言うのであった。
「ねえ」
「何かな」
「美味しい」
微かにだが微笑んでの言葉であった。
「とても」
「そう、美味しいんだ」
「元々きし麺は好きだけれど」
「それでも?」
「普段よりも美味しい」
頬も赤らんだ。そのうえで向かい側にいる赤瀬に対して言った。
「一緒にいるから」
「僕もだよ」
赤瀬もこう返した。
「とてもね」
「そうなの」
「うん、椎名さんと一緒にいるから」
だからだというのだった。椎名の頭上から。
「美味しいよ、普段よりもずっとね」
「そうなの。私と一緒だから」
「それで」
珍しくだ。赤瀬からの言葉であった。
「いいかな」
「何?」
「この文化祭の最後のキャンプファイアーだけれど」
「うん」
「一緒にどうかな」
こう椎名に提案するのであった。
「一緒にね。踊らない?」
「いいよ」
椎名はここでも頬を赤らめさせて微笑んでいた。
「その言葉待ってたから」
「待ってたんだ」
「だから二人きりになったの」
見ればだ。赤瀬を見上げるその目は潤んでいた。普段の落ち着いた、無表情ですらある彼女からは想像もできない姿がそこにあった。
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